丸紅のFY26、すなわち2027年3月期の業績予想は、同社が「資源市況に左右される総合商社」から「高ROICの事業プラットフォームを増やす総合商社」へ進もうとしていることをよく示しています。2026年6月公表のPresentation Materialsでは、FY26の連結純利益を5,800億円、コア営業キャッシュフローを6,600億円としています。2025年度実績の純利益は5,439億円、コア営業キャッシュフローは5,751億円でしたので、利益でもキャッシュでも増加を見込む計画です。
ただし、丸紅のFY26予想を単に「5,800億円の利益予想」とだけ見ると、かなり大事な部分を取り落とします。今回の資料で前面に出ているのは、7つのCore SPB、Natural Resources、資産入替、株主還元、そしてGlobal Excellenceという経営の方向性です。SPBはStrategic Platform Businessの略で、成長市場、高付加価値、拡張性を持つ事業を指します。丸紅はこのSPBを増やし、低ROIC資産を売却し、稼いだキャッシュを勝ち筋のある事業に再投資することで、長期的な企業価値を高めようとしています。
この記事では、丸紅のFY26業績予想を、公式IR資料と財務・業績情報をもとに整理します。電力、アグリ、食料、航空機アフターマーケット、IT、医薬品販売、銅を中心とする資源、資産入替、株主還元を順に見ながら、FY26予想の意味を解説します。
| 項目 | 2025年度実績 | FY26予想 | 主な見方 |
|---|---|---|---|
| 連結純利益 | 5,439億円 | 5,800億円 | 前期比361億円増。過去の資源高依存ではなく、SPBと資産効率を軸に増益を狙う |
| EPS | 330円 | 355円 | 利益成長と自己株式取得の効果を含め、1株当たり利益の引き上げを重視 |
| コア営業キャッシュフロー | 5,751億円 | 6,600億円 | 前期比849億円増。丸紅のFY26予想を見るうえで最も重要な指標 |
| 7つのCore SPBのコア営業キャッシュフロー | 1,880億円 | 2,550億円 | 前期比670億円増。アグリ、電力、航空機アフターマーケット、食品、IT、医薬品販売などを成長の柱にする |
| Natural Resourcesのコア営業キャッシュフロー | 1,349億円 | 1,321億円 | 前期比では小幅減だが、銅権益の拡張により2027年以降の供給力拡大を狙う |
| 年間配当金 | 107.5円 | 115円 | 累進配当を意識した増配。キャッシュ創出力の拡大と株主還元を連動させる |
| FY2025の資産入替 | 投資3,368億円、売却5,009億円 | GC2027で投資・CAPEX等1.7兆円 | 低ROIC資産を売却し、SPBなど勝ち筋のある事業へ資本を振り向ける |
| GC2027の資本配分 | – | コア営業CF2.0兆円、売却7,000億円、株主還元6,000億円 | キャッシュを稼ぎ、資産を入れ替え、成長投資と株主還元を両立する設計 |
FY26予想の全体像
丸紅のFY26予想でまず押さえるべき数字は、連結純利益5,800億円、コア営業キャッシュフロー6,600億円です。丸紅の公式財務データでは、2025年度、つまり2026年3月期の親会社の所有者に帰属する当期利益は5,439億円でした。FY26予想の5,800億円は、そこから361億円の増益です。
一方で、より重要なのはコア営業キャッシュフローです。2025年度の5,751億円に対し、FY26予想は6,600億円です。増加額は849億円で、純利益の増加額より大きくなっています。総合商社の業績を見る際、会計上の利益だけでなく、事業が実際にどれだけキャッシュを生んでいるかは非常に重要です。資源価格、在庫評価、一過性損益、売却益などで利益は動きますが、持続的な成長投資と株主還元を支えるのはキャッシュです。
丸紅は、FY2020からFY2025にかけてコア営業キャッシュフローを3,696億円から5,751億円へ伸ばしました。FY26予想の6,600億円まで届くと、FY2020からの増加幅は約2,900億円になります。これは、単に資源価格が高かったからというより、SPBや資源権益、資産入替を組み合わせ、キャッシュ創出力を構造的に厚くしようとしてきた結果と読めます。
利益面では、FY2020の純利益2,233億円からFY2025の5,439億円へ伸び、FY26は5,800億円を見込みます。EPSはFY2020の126円からFY2025の330円、FY26予想の355円へ上がります。配当もFY2020の33円からFY2025の107.5円、FY26予想の115円へ増えています。利益、EPS、配当が同じ方向に伸びている点は、丸紅が単年度の市況だけでなく、株主還元を含む企業価値向上を明確に意識していることを示します。
総合商社のキャッシュフローや利益の見方を先に整理したい場合は、以下の記事も参考になります。
丸紅のFY26予想は、事業別の細かな損益計画よりも、コア営業キャッシュフロー、SPB、Natural Resources、資本配分を通じて説明されています。これは、丸紅が「どのセグメントでいくら増益するか」だけでなく、「どのような事業モデルに資本を寄せるか」を強く打ち出しているためです。
7つのCore SPBが丸紅の成長エンジンになる
丸紅のFY26予想で最も特徴的なのは、7つのCore SPBを前面に出している点です。資料では、Core SPBとして、アグリインプット小売、北米モビリティ、電力卸・小売トレーディング、航空機アフターマーケット・アセットトレーディング、食品マーケティング・製造、IT・デジタルソリューション、医薬品販売の7領域を掲げています。
これらの事業は、一見するとバラバラに見えます。しかし、丸紅の説明では共通点があります。成長領域に位置していること、高付加価値を提供できること、そして拡張性があることです。単に商品を右から左へ流すだけではなく、顧客の課題に深く入り込み、サービスやデータ、在庫、金融、運営ノウハウを組み合わせて、同じモデルを横展開できる事業を重視していると理解できます。
Core SPBのコア営業キャッシュフローは、FY2020の691億円からFY2025には1,880億円へ増えました。FY26予想では2,550億円です。FY2025からFY26だけでも670億円の増加を見込んでおり、丸紅全体のコア営業キャッシュフロー増加の大きな部分を担います。ROICは15%と示されており、Natural Resourcesの9%、全社の11%と比べても高い水準です。
この構造は、丸紅の中期的な方向性を考えるうえで重要です。資源事業は、価格が高いときには大きな利益を生みますが、市況変動の影響も受けます。一方、SPBは、顧客基盤、販売網、データ、運営能力、在庫・物流、技術提案を通じて、比較的再現性のある収益を作ることを狙っています。もちろん、SPBも景気や競争の影響を受けますが、単なる市況連動ではなく、事業モデルの強さで稼ぐ部分が大きくなります。
丸紅がSPBを重視する背景には、総合商社としての資本効率の課題があります。総合商社は幅広い事業を持つため、資本を分散しすぎると、低収益資産が残りやすくなります。丸紅は、成長性と高ROICを満たす事業に資本を集中し、低ROIC資産を売却することで、ポートフォリオ全体の質を高めようとしています。
アグリインプット小売は丸紅らしいプラットフォーム事業
丸紅のSPBの中でも、アグリインプット小売は同社らしさが出やすい領域です。丸紅は米国のHelena Products Groupを軸に、農薬、肥料、種子、農業資材、農業データ、技術サービスを組み合わせ、農家の収量改善や効率化を支援しています。資料では、AGRIntelligenceやHelena Products Groupを通じて、顧客価値としてYield improvement、つまり収量改善を示しています。
アグリ事業は、単なる穀物取引とは異なります。農家に対して、どの資材をどのタイミングで使うか、土壌や気象条件に応じてどう管理するか、収量や品質をどう高めるかを提案する事業です。ここでは在庫、物流、与信、販売網、技術提案が収益の源泉になります。農薬や肥料は在庫管理が重要で、農家の作付けサイクルに合わせた供給も必要です。さらに、農家との関係が深まるほど、継続的な販売とデータ蓄積が進みます。
丸紅にとってアグリインプット小売が重要なのは、食料安全保障、気候変動、農業の効率化という長期テーマに接続しているからです。世界的に食料需要は底堅く、農地や水資源には制約があります。農業生産を増やすには、単に作付面積を広げるだけでなく、単位面積当たりの収量を高める必要があります。そこに、農業資材と技術提案を組み合わせる余地があります。
一方で、アグリ事業にはリスクもあります。天候不順、穀物価格、農家所得、農薬・肥料価格、規制、在庫評価、物流混乱の影響を受けます。米国農業は巨大市場ですが、地域ごとの競争も激しく、農家の購買行動も変わります。丸紅がこの領域で収益を伸ばすには、買収後の統合、店舗網の拡張、商品ラインアップ、データ活用、在庫回転、与信管理を継続的に磨く必要があります。
総合商社の食料・アグリ事業を横断的に見たい場合は、以下の記事も参考になります。
丸紅のアグリ事業は、食料バリューチェーンの上流に近いところで、農家の生産性に関わる事業です。食料の安定供給を支えながら、商社としては在庫、物流、販売網、データ、技術提案で収益を作る。ここに、丸紅のSPB戦略の分かりやすい形があります。
電力卸・小売トレーディングは丸紅の次の強みになり得る
丸紅は従来から電力・インフラ領域に強い総合商社として知られています。発電事業、IPP、再生可能エネルギー、電力小売・トレーディング、環境価値など、電力をめぐる事業は大きく変化しています。FY26予想を読むうえでも、電力卸・小売トレーディングは重要なSPBです。
資料では、電力卸・小売トレーディングをCore SPBの一つとして掲げ、電力、トレーディング、環境証書を組み合わせて、顧客に柔軟性と環境価値を提供すると説明しています。また、FY2025の投資例として、スペインのFactor Energiaが挙げられています。これは、発電設備を持つだけでなく、電力の売買、需給調整、顧客向け小売、環境価値の提供まで含めて、電力バリューチェーンを広げようとする動きです。
電力事業は、総合商社にとって長期運営とリスク管理が問われる領域です。発電事業は設備投資が大きく、契約期間も長くなります。一方、電力トレーディングや小売は、価格変動、需給予測、顧客獲得、規制対応、信用リスクが重要になります。再生可能エネルギーが増えるほど、発電量は天候によって変動しやすくなり、電力の需給調整や価格リスク管理の価値が高まります。
丸紅がこの領域をSPBとして位置づける意味は、単なる発電資産の保有から、顧客接点と市場機能を持つ事業へ広げようとしている点にあります。発電資産だけなら、市況や規制に左右されます。しかし、電力小売、環境証書、需給調整、データ活用、顧客向けソリューションまで持てば、電力の変動そのものをサービス価値に変えられます。
もちろん、電力トレーディングは簡単ではありません。価格変動が大きい市場では、リスク管理を誤ると損失が出ます。顧客基盤を広げても、調達価格と販売価格のミスマッチが起きれば利益は圧迫されます。再エネの導入拡大は機会になる一方、制度変更や系統制約、蓄電池コスト、金利上昇の影響も受けます。
丸紅のFY26予想で電力を読む際は、発電容量の大きさだけでなく、電力をどう売るのか、どの顧客に価値を提供するのか、環境価値や需給調整をどう収益化するのかを見ることが重要です。これは、総合商社の電力事業が、従来のインフラ投資から、より運営・データ・市場機能を含む事業へ変わっていることを示します。
航空機アフターマーケットとモビリティは在庫と金融が効く
Core SPBには、航空機アフターマーケット・アセットトレーディングと北米モビリティも含まれます。これらは、丸紅が単にモノを売るだけでなく、資産、在庫、金融、データ、顧客接点を組み合わせて収益を作る領域です。
航空機アフターマーケットでは、航空機部品、整備需要、中古部品、在庫管理、資産売買が関係します。航空会社にとって、航空機部品の安定調達は安全運航とコスト管理に直結します。必要な部品が必要なタイミングで手に入らなければ、機体の稼働率が下がります。一方で、部品在庫を持ちすぎると資本が固定化されます。ここに、商社が在庫、調達網、販売先、資産評価を組み合わせる余地があります。
丸紅はFY2025の投資例として、米国DASIの完全子会社化を挙げています。航空機アフターマーケットは、航空需要の回復、機体の長期使用、サプライチェーン制約、整備需要の増加と関係します。新品部品だけでなく、中古部品やリユース部品の活用が進むほど、部品の品質管理、在庫、トレーサビリティ、販売ネットワークが重要になります。
北米モビリティでは、中古車ローンや自動車関連サービスがテーマになります。資料では、顧客価値として、迅速で正確な与信判断、時間節約、安心感が挙げられています。ここでは、車そのものよりも、金融、保証、データ、顧客接点が収益源になります。FY2025の投資例として、カナダの自動車延長保証事業LGMも示されています。
モビリティ事業は、景気や金利の影響を受けやすい領域です。中古車価格、ローン金利、消費者信用、延長保証の損害率、販売店ネットワークが収益を左右します。丸紅がこの領域でSPBを育てるには、与信モデル、販売チャネル、保証商品の設計、データ活用、リスク管理が欠かせません。
ここで重要なのは、丸紅が「商品」ではなく「顧客接点と運営機能」を取りにいっていることです。航空機部品でも中古車ローンでも、単発の売買ではなく、顧客が繰り返し必要とするサービスを押さえることで、継続収益を作る狙いがあります。
食品・IT・医薬品販売は非資源の厚みを作る
丸紅のCore SPBには、食品マーケティング・製造、IT・デジタルソリューション、医薬品販売も含まれます。これらは、資源市況とは異なる需要に支えられる領域です。食品は日常消費、ITは生産性向上、医薬品は医療需要に結びつきます。
食品マーケティング・製造では、独自配合や商品開発によって顧客価値を生むことが重視されています。FY2025の投資例には、米国Bubbiesのアイスクリーム製造事業が含まれます。食品事業は、原料調達、製造、ブランド、販売チャネル、低温物流、品質管理が絡みます。単なる原料取引よりも、消費者に近いところで付加価値を取るほど、利益率や顧客基盤を高めやすくなります。
IT・デジタルソリューションでは、現場接点と業界知見を生かし、顧客の生産性向上や事業の強靭化を支援することがテーマです。総合商社のデジタル事業は、単独のシステム開発会社とは少し違います。商社は、食料、電力、物流、モビリティ、医療、製造など、多様な事業現場を持っています。その現場で得た課題を、IT・データ・AIで解決することができれば、事業会社運営の強みとデジタルを結びつけられます。
医薬品販売は、新たにCore SPBに加えられた領域です。資料では、住友ファーマのアジア事業やアフリカのPhillips Healthcareの事業承継に触れています。医薬品販売は、製品調達、規制対応、現地販売網、物流、在庫、品質管理、与信が重要です。特に新興国では、医薬品へのアクセス、医療インフラ、支払い能力、規制が複雑に絡みます。
丸紅が医薬品販売をCore SPBに加えた意味は、Helenaで培った勝ち筋を別領域へ応用しようとしている点にあります。単に医薬品を売るのではなく、地域の需要を理解し、製品を調達し、販売網を作り、在庫と物流を管理する。これは、総合商社が得意とする商流・物流・金融・現地ネットワークの組み合わせです。
非資源事業は、資源のように一気に利益が膨らむ局面は少ないかもしれません。しかし、顧客基盤と運営能力が積み上がれば、安定的なキャッシュフローを作りやすくなります。丸紅のFY26予想では、この非資源の厚みが、SPBのコア営業キャッシュフロー増加として表れています。
Natural Resourcesは銅を中心に中長期で効かせる
丸紅はSPBを強調していますが、資源事業を軽視しているわけではありません。資料ではNatural Resourcesのコア営業キャッシュフローについて、FY2025実績1,349億円、FY26予想1,321億円と示しています。前期比では小幅に減少しますが、ROICは9%で、全社のキャッシュ創出を支える重要な柱です。
特に注目されるのは銅です。資料では、Los Pelambres、Centinela、Antucoyaなどの銅権益を挙げ、2023年12月時点で年間持分生産能力約15万トン、Los Pelambresの追加取得後に約16万トン、Centinela拡張完了後には約20万トンへ拡大する見通しを示しています。Centinelaの拡張は2027年完了予定です。
銅は、AIデータセンター、再生可能エネルギー、EV、送配電網、電化の進展と関係が深い金属です。電力需要が増え、送電網やデータセンター投資が拡大するほど、銅需要は底堅くなります。丸紅が銅権益を増やすことは、短期の資源価格だけでなく、電化社会の長期テーマに乗る戦略と読めます。
資源事業の難しさは、市況、コスト、操業、カントリーリスク、環境対応、パートナー関係にあります。銅価格が上がれば利益は増えやすい一方、下落すれば収益は圧迫されます。鉱山開発は投資額が大きく、操業開始まで時間もかかります。環境許認可や地域社会との関係も重要です。
丸紅は、低カントリーリスク、基幹産業を支える需要、コスト競争力、信頼できるパートナーを重視していると説明しています。これは、資源事業で何でも拡大するのではなく、優良資産とパートナーを選び、長期の需要が見込める領域に絞る姿勢です。
総合商社の金属資源事業を横断的に理解したい場合は、以下の記事も参考になります。
FY26予想だけを見ると、Natural Resourcesのコア営業キャッシュフローは前期比でほぼ横ばいから小幅減です。しかし、銅の生産能力拡大が2027年以降に効いてくる可能性を考えると、丸紅の資源事業は短期の利益だけでなく、中長期の電化需要を取り込む装置として見る必要があります。
資産入替は丸紅の投資規律を読む核心
丸紅のFY26予想を読むうえで、資産入替は避けて通れません。資料では、FY2025の売却額を5,009億円、投資額を3,368億円と示しています。売却対象には、北米鉄道貨車リース事業、豪州ガス配給事業、豪州肉牛生産事業などが含まれます。一方、投資対象には、Helena、DASI、Factor Energia、Bubbies、LGM、医薬品販売事業など、SPBや勝ち筋のある事業が並びます。
この数字が示しているのは、丸紅が単に新規投資を増やしているのではなく、低ROIC資産から資本を回収し、高ROICで拡張性のある事業へ振り向けていることです。総合商社は、多くの事業を持つため、歴史的に保有してきた資産が残りやすい構造があります。安定していても資本効率が低い事業を抱え続けると、全社のROICやROEは上がりにくくなります。
丸紅は、GC2027の資本配分として、コア営業キャッシュフロー2.0兆円、売却7,000億円をキャッシュインとし、株主還元6,000億円、新規投資・CAPEX等1.7兆円をキャッシュアウトに位置づけています。新規投資・CAPEX等のうち、SPBに1.2兆円、Natural Resourcesに2,000億円、インフラ投資・ファイナンスに2,000億円、将来投資に1,000億円を配分する構想です。SPBが約70%を占めます。
ここで重要なのは、投資額の大きさではなく、資本配分の一貫性です。丸紅は、キャッシュを稼ぎ、低ROIC資産を売却し、SPBや資源など勝ち筋のある領域に投資し、同時に株主還元も行うという流れを作ろうとしています。この流れが続けば、利益成長だけでなく、資本効率の改善にもつながります。
総合商社の資産入替と収益認識の考え方は、以下の記事でも詳しく整理しています。
ただし、資産入替には注意点もあります。売却益は一過性の利益になりやすく、優良資産を売りすぎれば将来のキャッシュフローが減る可能性もあります。また、売却で得た資金を投資した先が期待通りに成長しなければ、資本効率は改善しません。丸紅のFY26以降を見るうえでは、売却額そのものよりも、売却後の資本がどの事業に入り、どの程度のROICを生むかが重要です。
株主還元はキャッシュ創出力と一体で読む
丸紅は、FY26の年間配当を115円としています。FY2025実績の107.5円から増配です。FY2020の年間配当33円と比べると、かなり大きく増えています。資料では、利益、EPS、配当、自己株式取得をあわせて示し、キャッシュ創出力の拡大が株主還元につながってきたことを説明しています。
丸紅の株主還元を読む際に大切なのは、配当利回りだけでなく、コア営業キャッシュフロー、投資計画、資産入替、自己株式取得をセットで見ることです。GC2027では、株主還元6,000億円を資本配分に組み込んでいます。これは、成長投資を優先する一方で、株主還元も経営計画の中に明確に位置づけているということです。
総合商社は、投資会社のように見られることがありますが、実際には事業会社運営と資本配分を同時に行う会社です。利益をすべて配当に回すわけにはいきません。SPBや資源、電力、医薬品販売、ITなどに再投資しなければ、将来のキャッシュフローは伸びません。一方で、成長投資ばかりで株主還元が弱ければ、資本市場からの評価は上がりにくくなります。
丸紅のFY26予想は、このバランスを取ろうとしている内容です。コア営業キャッシュフローを6,600億円まで伸ばし、配当を115円へ増やし、GC2027では株主還元6,000億円を掲げる。同時に、SPBに1.2兆円の資本を配分する。この設計が実行できれば、単なる増配ではなく、成長投資と還元の両立として評価されやすくなります。
総合商社の株主還元を比較したい場合は、以下の記事も参考になります。
ただし、株主還元は将来のキャッシュ創出力があってこそ持続します。資源価格が下がる、アグリや電力の収益が伸びない、買収先の統合がうまくいかない、金利が上がる、といった要因が重なると、還元余力は変わります。したがって、丸紅の還元方針を見る際は、配当額だけでなく、SPBの成長と資産入替の質をあわせて見る必要があります。
FY26予想のリスク要因
丸紅のFY26予想は、全体として前向きな内容です。しかし、総合商社の業績予想ですので、複数のリスクを織り込んで読む必要があります。
第一に、資源価格です。Natural ResourcesはFY26予想ではコア営業キャッシュフロー1,321億円を見込みますが、銅、石炭、鉄鉱石、エネルギー関連価格は市況変動の影響を受けます。銅は長期需要が期待される一方、短期的には中国景気、米国金利、ドル相場、在庫、鉱山供給によって価格が動きます。
第二に、アグリ事業です。Helenaを中心とするアグリインプット小売は、丸紅の重要なSPBですが、農家所得、穀物価格、肥料・農薬価格、天候、作付面積、規制の影響を受けます。農業資材は需要の底堅さがありますが、在庫や価格変動を誤ると利益率が動きます。
第三に、電力事業です。電力卸・小売トレーディングは成長余地がある一方、価格変動、需給予測、顧客獲得、規制変更、信用リスクが絡みます。再エネの導入拡大は機会ですが、変動性の高い市場でリスク管理を誤ると損失が出る可能性もあります。
第四に、買収後の統合です。丸紅はSPBのロールアップやボルトオン投資を進めています。Helena、DASI、Factor Energia、Bubbies、LGM、医薬品販売事業など、買収・追加投資を通じて事業を広げる場合、統合、ガバナンス、人材、システム、財務管理が重要になります。買って終わりではなく、買った後にどれだけ事業価値を高められるかが問われます。
第五に、為替と金利です。丸紅は海外事業が大きく、ドル建て収益や海外資産を多く持ちます。円安は円換算利益にプラスになりやすい一方、現地通貨、金利、調達コスト、インフレの影響も受けます。投資額が大きい事業ほど、金利上昇は資本コストに影響します。
これらのリスクを踏まえると、丸紅のFY26予想は、単に強気か弱気かで判断するより、SPBがどれだけ計画通りにキャッシュを伸ばすか、資源が中長期でどれだけ支えるか、資産入替が資本効率の改善につながるかを見ていく必要があります。
丸紅のFY26予想は「稼ぐ力の質」を問う内容
丸紅のFY26業績予想をまとめると、連結純利益5,800億円、コア営業キャッシュフロー6,600億円、Core SPBのコア営業キャッシュフロー2,550億円、Natural Resourcesのコア営業キャッシュフロー1,321億円、年間配当115円という内容です。数字だけを見れば、増益・増配の計画です。しかし、より重要なのは、その中身です。
丸紅は、7つのCore SPBを成長エンジンとして位置づけています。アグリインプット小売、電力卸・小売トレーディング、航空機アフターマーケット、食品、IT、医薬品販売、北米モビリティは、いずれも単なるトレーディングではなく、顧客接点、在庫、物流、金融、データ、技術提案、運営ノウハウが収益に結びつく事業です。これらの事業が伸びるほど、丸紅は資源市況だけに左右されにくい収益構造へ近づきます。
一方で、Natural Resourcesも重要です。特に銅は、AIデータセンター、再エネ、EV、送配電網の拡大と関係が深く、2027年以降の生産能力拡大が中長期の成長材料になります。丸紅は、資源を手放すのではなく、需要が見込め、パートナーやコスト競争力のある資産に絞り込んでいく方向です。
さらに、資産入替と資本配分がFY26以降の鍵になります。FY2025には5,009億円の売却と3,368億円の投資を実行しました。GC2027では、コア営業キャッシュフロー2.0兆円、売却7,000億円、新規投資・CAPEX等1.7兆円、株主還元6,000億円を掲げています。この資本配分が計画通りに進めば、丸紅はキャッシュを稼ぎ、低ROIC資産を売り、高ROICのSPBへ投資し、株主還元も行う循環を作れます。
丸紅のFY26予想は、総合商社の収益構造が変わっていく過程を示す材料です。かつての丸紅は、食料、電力、資源、インフラに強い商社という見方が中心でした。現在はそこに、SPB、資本効率、資産入替、AI、医薬品販売、航空機アフターマーケット、電力トレーディングといった要素が加わっています。
丸紅という会社の全体像をあわせて確認したい場合は、以下の記事も参考になります。
FY26予想を見るうえでの核心は、利益5,800億円を達成するかどうかだけではありません。その利益をどの事業で稼ぎ、どの程度キャッシュに変え、どの資産を売り、どこへ再投資し、どのように株主還元へつなげるかです。丸紅のFY26は、まさにその「稼ぐ力の質」が問われる年度になります。
