住友商事のFY26、すなわち2027年3月期の業績予想は、同社の事業ポートフォリオが大きく変わり始めていることを示す内容です。2026年5月に公表された決算発表・決算説明会プレゼンテーション資料では、2026年度の親会社の所有者に帰属する当期利益を6,300億円とし、バッファー考慮前では6,600億円を見込んでいます。2025年度実績の6,003億円からさらに増益となり、過去最高益の更新を計画しています。
住友商事のFY26予想で特に重要なのは、基礎的収益が5,280億円から6,200億円へ大きく伸びる点です。基礎的収益は、資産入替関連及び特殊損益を除いた、事業の実力に近い利益指標です。住友商事は2025年度に過去最高益を出しましたが、そこには資産入替関連及び特殊損益720億円が含まれていました。FY26はこの一過性要因が400億円へ減る一方で、基礎的収益を920億円増やす計画です。
この構造は、住友商事にとってかなり大きな意味を持ちます。過去の住友商事は、アンバトビーのような大型減損案件や、資源・インフラ・海外事業での苦戦が注目されることもありました。しかし、現在の住友商事は、中期経営計画2026のもとで、No.1事業群、資産入替、DAIS、SCSK完全子会社化、リース、不動産、エネルギーソリューションなどを組み合わせ、収益基盤を再設計しようとしています。
この記事では、住友商事のFY26業績予想を、決算短信、決算説明資料、有価証券報告書をもとに整理します。単なる利益予想ではなく、DAISとSCSKがなぜ重要なのか、デジタル・AIグループが何を変えるのか、輸送機・建機や資源、エネルギートランスフォーメーションがどのように利益を支えるのか、資産入替と株主還元をどう読むべきかを解説します。
| 項目 | 2025年度実績 | FY26予想 | 主な見方 |
|---|---|---|---|
| 親会社の所有者に帰属する当期利益 | 6,003億円 | 6,300億円 | バッファー300億円を織り込んでも過去最高益更新を見込む |
| バッファー考慮前の当期利益 | – | 6,600億円 | 中東情勢など不確実性を踏まえ、最終予想は6,300億円に設定 |
| 基礎的収益 | 5,280億円 | 6,200億円 | 前期比920億円増。デジタル・AI、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーションが押し上げる |
| 資産入替関連及び特殊損益 | 720億円 | 400億円 | 前期比では減少するが、資産入替を収益源として継続 |
| ROE | 12.9% | 13%程度 | 中期経営計画2026の効率性目標を意識した水準 |
| 年間配当金 | 150円 | 160円 | 株式分割考慮前。分割後は40円予想 |
| 自己株式取得 | 700億円 | 700億円 | 2026年度分として700億円を決定。総還元性向40%以上と累進配当を継続 |
| デジタル・AIグループ | 当期利益353億円 | 530億円 | SCSK完全子会社化、ネットワンシステムズ連結化、DAIS推進が焦点 |
| SCSK持分損益 | 429億円 | 750億円 | 持分比率上昇とグループ通算制度加入による税コスト減少を含む |
FY26予想の全体像
住友商事の2026年3月期決算短信では、2027年3月期の連結業績予想として、親会社の所有者に帰属する当期利益6,300億円を掲げています。2025年度実績は6,003億円でしたので、前期比では297億円の増益です。
ただし、住友商事はこの6,300億円を、単純な積み上げだけで作っているわけではありません。決算説明資料では、2026年度通期利益予想について、バッファー考慮前では6,600億円とし、中東情勢の不確実性などに対する備えとして300億円のバッファーを織り込んだうえで、最終的な通期予想を6,300億円としています。
このバッファーの置き方は、住友商事の近年の変化をよく表しています。総合商社は、資源価格、為替、金利、地政学リスク、投資先の業績、減損、資産売却益などによって、利益が大きく動きます。住友商事は、特に過去に大型減損を経験してきた会社です。そのため、現在の経営では、利益目標を示しつつも、リスクを見積もり、バッファーを置き、資産効率と投資規律を重視する姿勢が強くなっています。
FY26予想では、当期利益6,300億円に対し、基礎的収益は6,200億円です。2025年度の基礎的収益5,280億円から920億円増えます。一方、資産入替関連及び特殊損益は、2025年度の720億円から400億円へ減少します。つまり、住友商事のFY26予想は、一過性利益で押し上げる計画ではなく、事業の基礎収益を伸ばして過去最高益を狙う計画と読めます。
ROEは13%程度を見込みます。2025年度実績は12.9%でしたので、ほぼ同水準を維持しながら、利益規模を引き上げる計画です。年間配当金は、株式分割考慮前で160円、分割後で40円の予想です。自己株式取得は、2026年度分として700億円を決定しています。
住友商事のFY26予想を読むうえでは、当期利益、基礎的収益、資産入替関連及び特殊損益、ROE、株主還元をセットで見る必要があります。特に、基礎的収益がどこで伸びるのかが中心です。
基礎的収益6,200億円の意味
住友商事のFY26予想で最も重要なのは、基礎的収益6,200億円です。2025年度の5,280億円から920億円の増加です。この増加は、住友商事のポートフォリオ変革が単なるスローガンではなく、数字として表れ始めていることを示します。
基礎的収益の増加要因を見ると、デジタル・AI、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーション、ライフスタイル、化学品・エレクトロニクス・農業など、幅広いセグメントが寄与しています。特に、デジタル・AIは基礎的収益が約330億円から約530億円へ、輸送機・建機は約900億円から約1,090億円へ、資源は約730億円から約950億円へ、エネルギートランスフォーメーションは約880億円から約1,150億円へ増える計画です。
この構造は、住友商事が一つの事業だけに依存しているわけではないことを示します。デジタル・AIではSCSK、輸送機・建機では航空機リースや建機レンタル、資源ではアルミ・銅・石炭、エネルギートランスフォーメーションでは海外発電事業や資産回転が利益を支えます。
一方で、注意すべき点もあります。自動車は当期利益が632億円から340億円へ減少する予想です。主力市場における競争激化や中東情勢の影響による販売数量減が見込まれています。鉄鋼も743億円から720億円へ小幅減益です。都市総合開発は815億円から950億円へ増益ですが、基礎的収益では約840億円から約780億円へ減少し、資産入替関連及び特殊損益の寄与も含まれます。
つまり、住友商事のFY26予想は、全事業が一律に伸びる計画ではありません。伸びる事業、再構築する事業、資産回転で利益を作る事業、地政学リスクの影響を受ける事業が混在しています。この点が、総合商社の業績予想を読む難しさであり、面白さでもあります。
総合商社の基礎収益やキャッシュフローの見方は、以下の記事でも整理しています。
住友商事の場合、FY26の基礎的収益6,200億円が達成されるかどうかは、SCSKの収益貢献、航空機リースの回復、資源価格と数量、海外発電事業の資産回転、課題事業の改善にかかっています。
DAISは住友商事の成長戦略の中心へ
FY26予想で最も注目すべきテーマは、DAISです。DAISは、住友商事が策定したデジタル・AI戦略です。決算説明資料では、DAISについて、住友商事の事業現場でデジタル・AIを活用し、「SCSKを含むデジタルソリューションの成長」「デジタル・AI戦略による住友商事グループ全体の成長」「住友商事グループとSCSKを含むデジタルソリューションとの協業による成長」の3本柱で推進すると説明されています。
この説明は、単なるDX投資とは違います。住友商事は、SCSKを完全子会社化し、2026年4月にデジタル・AIグループを設置しました。これにより、従来はメディア・デジタルグループなどに分散していたデジタル関連機能を、一つの成長領域として集約する形になります。
総合商社にとって、デジタル・AIは単なる社内効率化の道具ではありません。事業会社経営の高度化、顧客接点の強化、サプライチェーンの可視化、在庫・物流・需給の最適化、金融やリースの与信管理、都市開発やインフラの運営、メディア事業の顧客データ活用など、幅広い事業の収益性に直結します。
住友商事のDAISで重要なのは、SCSKという実体のあるITサービス会社を持っていることです。AIやDXの方針だけを掲げても、実装できる人材、顧客基盤、システム開発力、運用力がなければ、収益にはつながりません。SCSKは、システム開発、ITインフラ、ネットワーク、運用、コンサルティングなどを担う企業であり、住友商事の事業現場に入り込むうえで重要な基盤になります。
決算説明資料では、住友商事の強みとして、事業現場、グローバルネットワーク、顧客へのインターフェイス、課題抽出力、事業構想力、海外事業投資を挙げています。一方、SCSKの強みとして、確立された経営基盤、14期連続増収増益、「SIer+NIer」という差別化されたポジションが示されています。両者の組み合わせにより、事業現場でデジタル・アプリケーションを社会実装し、デジタルインフラ構築にも取り組むという構図です。
このDAISは、住友商事の「No.1事業群」とも関係します。住友商事は、単に幅広い事業を保有するだけではなく、それぞれの事業で競争優位を磨き、No.1ポジションを持つ事業を増やそうとしています。デジタル・AIは、既存事業の収益性を上げる横串の機能であり、同時にSCSKを軸とした独立した成長事業でもあります。
住友商事のDAIS戦略については、以下の記事でも詳しく解説しています。
FY26予想を読むうえでは、DAISを「将来の話」として片付けないことが重要です。すでにSCSKの持分損益は、2025年度429億円からFY26予想750億円へ大きく伸びる見通しです。DAISは、業績予想の数字に反映され始めています。
SCSK完全子会社化のインパクト
住友商事のFY26予想で、最も分かりやすい増益要因がSCSKです。デジタル・AIグループの当期利益は、2025年度353億円からFY26予想530億円へ増加します。基礎的収益も、約330億円から約530億円へ増えます。その中心にあるのがSCSKです。
決算説明資料では、SCSKの持分損益について、2024年度234億円、2025年度429億円、FY26予想750億円と示されています。2025年12月に公開買付完了により持分比率が50.54%から88.63%へ上昇し、2026年3月には株式併合により100%となりました。FY26は、この持分比率上昇の効果が通年で寄与します。
さらに、SCSKはネットワンシステムズをグループ化しています。ネットワンシステムズは、ネットワークインフラやクラウド基盤に強みを持つ企業です。SCSKが持つSI、システム開発、運用、ITマネジメントに、ネットワークインフラの強みが加わることで、住友商事グループのデジタルソリューション領域は広がります。
SCSK完全子会社化の意味は、単に持分損益が増えることではありません。住友商事がSCSKの成長をフルサポートし、同時にSCSKの技術を住友商事グループの事業現場へ入れていくことで、グループ全体の収益性を上げることが狙いです。鉄鋼、建機、ライフスタイル、都市開発、メディア、ヘルスケア、エネルギーなど、住友商事の事業はデジタル・AIと接続できる余地があります。
もちろん、投資負担もあります。決算説明資料では、SCSK完全子会社化に関連して、公開買付分約6,800億円、スクイーズアウト分約2,000億円が示されています。SCSKによるネットワンシステムズへの出資約3,300億円もあります。大型投資だからこそ、財務健全性や投資回収は重要です。
住友商事は、2026年度から2028年度にかけて、資産入替の加速などにより財務健全性を大型投資実行前の水準へ戻す方針を示しています。これは、SCSK投資を成長の柱にしつつも、負債や資本効率への影響を放置しないということです。
総合商社とIT子会社の関係は、近年ますます重要になっています。三菱商事にはインダストリーDX、伊藤忠商事にはCTC、住友商事にはSCSKがあります。住友商事の場合、SCSKを完全子会社化したことで、単なる持分法投資先ではなく、グループ戦略の中核に据えやすくなりました。
セグメント別に見るFY26予想
住友商事のFY26予想は、セグメント別に見ると、かなり濃淡があります。合計では当期利益6,300億円ですが、その内訳には、強く伸びる事業と、苦戦が続く事業が混在しています。
鉄鋼は、2025年度743億円からFY26予想720億円へ小幅減益です。基礎的収益は660億円から680億円へ増えます。北米鋼管では市況横ばいの中、商材・サービスの拡販による増益が見込まれる一方、他地域の鋼管事業は中東情勢などにより減益が見込まれています。鋼材では、モノパイル製造事業が前期好調の反動減はあるものの、堅調に推移する見通しです。
自動車は、632億円から340億円へ大きく減益する予想です。主力市場における競争激化に加え、中東情勢の影響による販売数量減が見込まれています。国内オートリース事業は堅調に推移する見通しですが、自動車流通の減益が大きく、FY26の全社増益を抑える要因になります。
輸送機・建機は、889億円から1,040億円へ増益です。基礎的収益は約900億円から約1,090億円へ増えます。輸送機では、米国航空機リース事業買収によりリース事業が増益となる一方、船舶は売船隻数減により減益です。建設機械では、レンタル事業のオペレーション改善などが増益要因です。住友商事にとって、航空機リースや建機レンタルは、No.1事業群を形成しやすい領域です。
都市総合開発は、815億円から950億円へ増益です。ただし、基礎的収益は約840億円から約780億円へ減少します。これは、資産入替関連及び特殊損益の寄与も含めて当期利益が増える構造です。不動産は、資産回転の積極促進により堅調に推移する見通しです。住友商事は、都市開発にインフラやデジタルを組み合わせる方向性を示しており、海外都市開発やデジタルインフラとの接続も注目されます。
コミュニケーションサービスは、160億円から150億円へ小幅減益です。国内主要事業会社は堅調とされていますが、大きな増益ドライバーというよりは、安定収益の位置づけです。メディア事業では、テレビ通販、デジタル、リアルを連携させる戦略や、コールセンターでのデジタル・AI活用が示されています。
デジタル・AIは、353億円から530億円へ大きく増益です。SCSK追加取得に伴う持分比率上昇の増益効果が通年で寄与します。ネットワンシステムズのグループ化、SCSKの好調、グループ通算制度加入による税コスト減少も含まれます。FY26予想の中で、最も戦略的な意味が大きいセグメントです。
ライフスタイルは、2025年度の36億円の赤字から、FY26は170億円の黒字へ回復する計画です。欧米州青果事業では、前期メロン事業撤退による反動増、バナナ・パイナップル事業の堅調な推移が見込まれています。DX推進などを通じた国内外の既存事業のバリューアップと事業規模拡大も増益要因です。
資源は、823億円から950億円へ増益です。基礎的収益は約730億円から約950億円へ伸びます。資源価格上昇、アルミのマージン拡大、銅事業の生産増、豪州石炭事業の販売数量回復が増益要因です。住友商事は資源大手という印象は三菱商事や三井物産ほど強くありませんが、資源価格や数量の影響は全社利益にしっかり効きます。
化学品・エレクトロニクス・農業は、265億円から330億円へ増益です。アグリ事業では、ブラジルでのコスト削減と高付加価値製品の販売強化による収益性改善が見込まれています。ライフサイエンスでは、ペットケア関連事業や医薬品関連取引が堅調です。
エネルギートランスフォーメーションは、1,024億円から1,150億円へ増益です。基礎的収益は約880億円から約1,150億円へ増えます。海外発電事業では、資産回転の加速による増益が見込まれています。総合商社のGX・エネルギー転換領域では、再エネや発電事業を単に長期保有するだけでなく、開発・運営・売却を組み合わせる資産回転型のモデルが重要になっています。
このように、住友商事のFY26予想は、デジタル・AIとSCSK、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーションが増益を支え、自動車の減益や一部セグメントの課題を吸収する構造です。
資産入替は利益と財務健全性の両方に効く
住友商事のFY26予想では、資産入替も重要です。2025年度には資産入替関連及び特殊損益として720億円を計上し、FY26も400億円を見込んでいます。中期経営計画2026では、2024年度から2026年度の資産入替によるCash inを、当初の0.8兆円から1.1兆円へ増額しています。
資産入替は、総合商社にとって単なる売却益づくりではありません。低成長・低ROICの事業を整理し、成長分野へ資金を振り向け、バランスシートを軽くし、投資余力を作るための手段です。住友商事の場合、SCSK完全子会社化という大型投資を行ったため、資産入替によって財務健全性を戻すことがより重要になっています。
決算説明資料では、2026年度から2028年度にかけて、資産入替の加速などにより財務健全性を大型投資実行前の水準まで戻す方針が示されています。これは、SCSKを成長投資の柱にしながら、過度な財務負担を避けるためのバランスです。
また、住友商事は課題事業への対応も進めています。2026年5月には、アンバトビーニッケル事業の譲渡契約締結が示されました。アンバトビーは、住友商事の大型減損案件として知られる事業です。FY26予想では、譲渡に関連して約700億円の損失を計上する見込みですが、関連して税効果を認識するため、業績に与える影響は軽微であり、通期予想に織り込み済みとされています。
この点は、住友商事の過去と現在をつなぐ重要な論点です。過去の大型投資で苦戦した案件を整理し、SCSKやリース、デジタル、エネルギーソリューションなどへ資本を振り向ける。これが中期経営計画2026のポートフォリオ変革です。
住友商事の大型買収・減損の歴史は、以下の記事でも整理しています。
FY26予想では、資産入替関連及び特殊損益が400億円ありますが、より大事なのは、その資産入替が将来の基礎的収益6,200億円、さらにその先の利益成長につながるかです。
キャッシュフローと投資配分
住友商事のFY26を読むうえでは、キャッシュフローアロケーションも欠かせません。決算説明資料では、2024年度から2026年度の中期経営計画期間におけるキャッシュフロー収益力、投資、資産入替、株主還元の見通しが示されています。
住友商事は、SCSK完全子会社化、ネットワンシステムズへの出資、航空機リース事業、洋上風力発電用の基礎構造物製造事業、ベルギー建機代理店など、大型投資を進めています。2026年度に利益貢献を見込む確定済み大口案件として約5,200億円、2026年度に利益貢献を見込む投資として約1.3兆円が示されています。
一方で、SCSK完全子会社化には大きな資金が必要でした。公開買付分で約6,800億円、スクイーズアウト分で約2,000億円が示されています。さらに、SCSKによるネットワンシステムズへの出資約3,300億円もあります。
このような大型投資を行うと、短期的には有利子負債や財務指標に負荷がかかります。住友商事は、資産入替、キャッシュフロー収益力の向上、株主還元方針の維持を組み合わせながら、財務健全性をコントロールする方針です。
総合商社の投資は、PEファンドのように買収して売却益だけを狙うものではありません。事業会社経営に入り込み、商流、顧客基盤、人材、デジタル、金融、物流、海外ネットワークを使って事業価値を高めることが求められます。住友商事のSCSK投資も、単なるIT企業買収ではなく、グループ全体の事業現場にデジタル・AIを入れるための投資です。
総合商社とPEファンドの違いは、以下の記事でも整理しています。
https://shousha.net/sogo-shosha-private-equity-difference/
住友商事のFY26は、投資額そのものよりも、投資後の事業変革が問われる年度です。SCSK、航空機リース、建機、エネルギーソリューション、不動産、ライフスタイルなどで、どれだけキャッシュフロー収益力を高められるかが重要になります。
株主還元は累進配当と総還元性向40%以上を継続
住友商事は、FY26も株主還元を強く意識しています。株主還元方針は、総還元性向40%以上と累進配当です。累進配当とは、前期実績に対して配当維持または増配を行う考え方です。
2025年度の年間配当金は150円です。直近予想の140円から10円増配しました。FY26の年間配当金予想は、株式分割前で160円です。2026年7月1日を効力発生日として1株を4株に分割するため、分割後の年間配当金予想は40円です。自己株式取得については、2026年度分として700億円を決定しています。
ここで見るべきなのは、住友商事が大型投資を進めながらも、株主還元方針を維持している点です。SCSK完全子会社化などにより投資負担は大きくなっていますが、現行の株主還元方針は継続し、戦略的な投資も例年と同規模で継続し、更なる成長を目指すとしています。
このバランスは簡単ではありません。利益が伸び、キャッシュフロー収益力が高まれば、投資と還元を両立できます。しかし、投資先の収益化が遅れたり、資源価格や為替、地政学リスクが悪化したりすると、財務健全性と還元の両立は難しくなります。
住友商事は、FY26予想に300億円のバッファーを織り込んでいます。これは、株主還元を続けるためにも重要です。総合商社の還元は、単年度利益だけでなく、基礎的収益、資産入替、キャッシュフロー、投資計画、財務健全性の総合判断で決まります。
総合商社の株主還元の比較は、以下の記事でも整理しています。
住友商事のFY26還元方針は、強気の成長投資と、資本市場への安定的な還元姿勢を両立させようとするものです。
資源価格と地政学リスクの見方
住友商事のFY26予想では、資源も増益を見込んでいます。資源セグメントは、2025年度823億円からFY26予想950億円へ増加します。基礎的収益は約730億円から約950億円へ伸びます。
増益要因としては、資源価格上昇、アルミのマージン拡大、銅事業における生産増、豪州石炭事業における販売数量回復が示されています。住友商事は、三井物産や三菱商事ほど資源色が強い会社として語られることは多くありませんが、資源ビジネスは全社利益に大きな影響を持ちます。
一方、地政学リスクも重要です。FY26予想では、中東情勢について、各ビジネスの状況を勘案し、見積もり可能な影響はセグメントの見通しに織り込んだとされています。さらに、中東情勢の不確実性などに対する備えとして、通期予想に300億円のバッファーを織り込んでいます。
自動車セグメントでは、中東情勢の影響による販売数量減が減益要因です。鉄鋼でも、他地域鋼管事業で中東情勢などによる減益が見込まれています。このように、地政学リスクは資源価格だけでなく、販売数量、物流、顧客需要、プロジェクトのタイミングにも影響します。
総合商社の業績予想を読むときは、資源価格の前提だけを見ても不十分です。地政学リスク、為替、金利、輸送、在庫、販売先市場、投資先の地域リスクが複雑に絡みます。住友商事のFY26予想では、その不確実性をバッファーとして明示している点が特徴です。
住友商事のFY26予想をどう読むか
住友商事のFY26予想は、過去最高益更新を目指す一方で、単純な強気計画ではありません。バッファーを置き、課題事業を整理し、資産入替を進め、SCSKを中核に据えたデジタル・AI戦略を推進する計画です。
住友商事のこれまでの課題は、事業ポートフォリオのばらつきと、大型投資のリスク管理でした。アンバトビーのような案件は、その象徴です。一方で、住友商事には、リース、メディア、デジタル、建機、都市開発、エネルギー、鉄鋼、化学品など、多様な事業基盤があります。FY26計画は、この基盤をDAISとSCSKで横断的に強化しようとする内容です。
中期経営計画2026では、強みを核とした成長、事業ポートフォリオ変革、資産効率の改善が重要です。FY26はその最終年度です。したがって、単年度の利益6,300億円だけでなく、次の3年間に向けて、どの事業が成長の柱になるかを確認する必要があります。
特に見るべきなのは、デジタル・AIグループの基礎的収益530億円がどこまで再現性を持つか、SCSK持分損益750億円が一時的な税効果を除いてどれだけ成長できるか、輸送機・建機のリース事業が安定的に拡大するか、エネルギートランスフォーメーションの資産回転が利益とキャッシュの両方に効くかです。
住友商事の強みや事業構造を理解するには、以下の記事も参考になります。
FY26予想は、住友商事が「過去の減損を経験した総合商社」から、「SCSKとDAISを軸に成長分野を再設計する総合商社」へ移る途中の計画として読むと理解しやすくなります。
まとめ
住友商事のFY26業績予想は、親会社の所有者に帰属する当期利益6,300億円、基礎的収益6,200億円、ROE13%程度、年間配当金160円、自己株式取得700億円という計画です。バッファー考慮前の当期利益は6,600億円ですが、中東情勢などの不確実性に備えて300億円のバッファーを織り込んでいます。
FY26予想の中心は、基礎的収益の増加です。2025年度の5,280億円から6,200億円へ、920億円の増加を見込みます。デジタル・AI、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーションが主な増益ドライバーです。一方、自動車は競争激化や中東情勢の影響で大きく減益を見込みます。
最も重要な戦略テーマは、DAISとSCSKです。SCSKの持分損益は、2025年度429億円からFY26予想750億円へ増える見通しです。SCSK完全子会社化、ネットワンシステムズのグループ化、デジタル・AIグループの設置により、住友商事はデジタル・AIをグループ全体の成長戦略に組み込もうとしています。
同時に、資産入替と財務健全性も重要です。SCSK完全子会社化という大型投資を行った以上、住友商事は資産入替を通じて財務健全性を戻しながら、基礎的収益を伸ばす必要があります。アンバトビーニッケル事業の譲渡も、過去の課題案件を整理し、次の成長分野へ資本を振り向ける流れの一部です。
住友商事のFY26予想は、単なる過去最高益更新の計画ではありません。SCSKを軸にしたデジタル・AI戦略、輸送機・建機やエネルギーの成長、資源価格の回復、課題事業の整理、資産入替、株主還元を同時に進める計画です。FY26は、中期経営計画2026の仕上げであり、住友商事が次の成長モデルへ移れるかを確認する重要な年度になります。

