総合商社7社のFY26、すなわち2027年3月期の業績予想を見ると、同じ「総合商社」という言葉では括りきれないほど、各社の利益の作り方が分かれてきています。三菱商事は連結純利益1兆1,000億円、三井物産は9,200億円、伊藤忠商事は9,500億円、住友商事は6,300億円、丸紅は5,800億円、豊田通商は4,000億円、双日は1,300億円を計画しています。
利益規模だけを並べると、三菱商事、伊藤忠商事、三井物産の上位3社が大きく見えます。しかし、FY26予想で本当に見るべきなのは、利益の絶対額だけではありません。どの事業が増益を支えるのか、資源価格と為替の前提にどれだけ依存しているのか、一過性損益や資産入替がどの程度入っているのか、キャッシュフローが利益を裏付けているのか、株主還元と成長投資のバランスがどう設計されているのかです。
総合商社は、資源、エネルギー、食料、金属、機械、化学品、モビリティ、小売、IT、金融、不動産、電力、物流などを広く扱います。ただし、各社が同じ事業を同じ強さで持っているわけではありません。三菱商事はLNG、金属、食品流通、モビリティ、電力などを広く持ち、三井物産は金属資源とエネルギーの厚みが目立ちます。伊藤忠商事は非資源・川下・事業会社経営に強く、住友商事はSCSKを軸にデジタル・AIの存在感を高めています。丸紅は電力、アグリ、食品、航空機アフターマーケットなどのSPBを前面に出し、豊田通商はモビリティ、アフリカ、再エネ、サーキュラーエコノミーで独自性があります。双日は航空・交通インフラ、化学、エネルギーソリューション、自動車、リテールなどをKATIモデルで束ねようとしています。
この記事では、7社の公式決算資料と中期経営計画をもとに、FY26業績予想を横断比較します。参照した主な資料は、三菱商事の2025年度決算及び2026年度見通し、三井物産の2026年3月期決算説明資料、伊藤忠商事の2025年度決算実績・2026年度経営計画説明資料、住友商事の決算発表・決算説明会プレゼンテーション資料、丸紅のPresentation Materials、豊田通商の2026年3月期 通期実績 2027年3月期 業績予想、双日の2026年3月期 決算資料です。
| 会社 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 主な増減益要因 | 見方 |
|---|---|---|---|---|
| 三菱商事 | 連結純利益8,005億円 | 連結純利益1兆1,000億円 | LNGカナダ、米国シェールガス、三菱食品、資産入替・特殊要因 | 資源・エネルギーと非資源再編を同時に使い、1兆円台へ回復する計画 |
| 三井物産 | 当期利益8,340億円 | 当期利益9,200億円 | エネルギー、金属資源、機械・インフラ、生活産業、基礎営業CF拡大 | 資源・エネルギーの厚みを維持しつつ、非資源投資も積み上げる計画 |
| 伊藤忠商事 | 当期純利益9,003億円 | 当期純利益9,500億円 | 基礎収益9,000億円、日立建機、北米電力、伊藤忠食品、非資源・川下事業 | 非資源の高効率経営を土台に、成長投資と大規模還元を同時に進める |
| 住友商事 | 当期利益6,003億円 | 当期利益6,300億円 | DAIS、SCSK、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーション | 基礎的収益を伸ばしつつ、300億円のバッファーを置く慎重な過去最高益計画 |
| 丸紅 | 連結純利益5,439億円 | 連結純利益5,800億円 | コア営業CF、7つのCore SPB、電力、アグリ、銅、資産入替 | 資源依存よりもSPBとキャッシュ創出力を前面に出す計画 |
| 豊田通商 | 税後利益3,705億円 | 税後利益4,000億円 | モビリティ、アフリカ、グリーンインフラ、サーキュラー、デジタル | トヨタグループ、アフリカ、再エネ、資源循環を組み合わせる成長計画 |
| 双日 | 当期純利益1,036億円 | 当期純利益1,300億円 | 構造改革、自動車の赤字改善、金属・資源回復、航空・交通インフラ、KATI | 前期の痛みを乗り越え、KATIモデルで収益の塊を大きくする計画 |
FY26予想は「全社増益」でも中身が違う
7社のFY26予想を大きく見ると、多くの会社が前期比増益を計画しています。三菱商事は8,005億円から1兆1,000億円へ、三井物産は8,340億円から9,200億円へ、伊藤忠商事は9,003億円から9,500億円へ、住友商事は6,003億円から6,300億円へ、丸紅は5,439億円から5,800億円へ、豊田通商は3,705億円から4,000億円へ、双日は1,036億円から1,300億円へ増益を見込みます。
ただし、増益の質はかなり違います。三菱商事は、営業収益キャッシュフロー1兆2,500億円、連結純利益1兆1,000億円を掲げ、LNGカナダの通年稼働、米国シェールガス、三菱食品の完全子会社化、インドネシア自動車事業の資本再編などを組み合わせています。リサイクル・特殊要因も2,800億円と大きく、資産入替による利益も計画に入っています。
三井物産は、当期利益9,200億円、基礎営業キャッシュフロー1兆500億円を見込みます。金属資源とエネルギーの厚みを維持しながら、機械・インフラ、ウェルネス、生活産業、モビリティ・デジタル・インフラの利益を伸ばす構図です。資源価格の影響を受ける一方、基礎営業キャッシュフローが1兆円台に乗る点が強みです。
伊藤忠商事は、当期純利益9,500億円、基礎収益9,000億円、実質営業キャッシュ・フロー1兆円規模を計画します。非資源比率は80%程度を見込みますが、単に非資源比率が高いという話ではありません。ファミリーマート、CTC、伊藤忠食品、日立建機、北米電力、サンフロンティア不動産などを通じて、川下、デジタル、金融、食品流通、建機、電力を組み合わせる計画です。
住友商事は、当期利益6,300億円を見込みます。バッファー考慮前では6,600億円ですが、中東情勢などの不確実性に備えて300億円を控除しています。基礎的収益は5,280億円から6,200億円へ大きく増え、SCSK、ネットワンシステムズ、DAIS、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーションが押し上げます。過去最高益を狙いながらも、リスクを明示的に織り込むのが特徴です。
丸紅は、連結純利益5,800億円、コア営業キャッシュフロー6,600億円を計画します。丸紅はFY26予想で、利益そのもの以上に、キャッシュ創出力とSPBを前面に出しています。電力、アグリ、食品、医薬品販売、航空機アフターマーケット、ITなどのCore SPBが成長ドライバーです。銅権益など資源も持ちますが、過去の資源高依存から、よりキャッシュと資産効率を重視する方向に移っています。
豊田通商は、税後利益4,000億円を計画します。モビリティ、アフリカ、グリーンインフラ、サーキュラーエコノミー、デジタルソリューションが増益の中心です。トヨタグループとの関係、CFAOを軸にしたアフリカ事業、再エネ、資源循環、半導体・電子部品が利益を押し上げます。資源権益で稼ぐ会社というより、現場に近い商流、販売網、物流、事業会社運営で稼ぐ会社です。
双日は、当期純利益1,300億円を計画します。前期は豪州石炭事業や自動車関連の不採算事業で痛みが出ました。FY26では、自動車の赤字改善、金属・資源・リサイクルの回復、航空・交通インフラ、生活産業・アグリ、リテールの伸長を見込みます。KATIモデルを通じて、収益の塊を大きくすることがテーマです。
このように、7社はいずれも増益を目指しますが、三菱商事は大型ポートフォリオ再編、三井物産は資源・エネルギーとキャッシュフロー、伊藤忠商事は非資源と投資拡大、住友商事はデジタル・AIと基礎収益、丸紅はSPBとキャッシュ創出、豊田通商はモビリティとアフリカ、双日は構造改革後の回復とKATIという違いがあります。
資源価格で見ると三菱商事・三井物産・丸紅・住友商事の論点が濃い
総合商社の業績予想を比較するとき、資源価格の影響は避けて通れません。鉄鉱石、原料炭、一般炭、銅、LNG、原油、ガス、アルミ、メタノールなどの市況は、各社の利益を大きく動かします。ただし、資源の持ち方は会社ごとに違います。
三菱商事は、金属資源とLNG・エネルギーの存在感が大きい会社です。FY26では、LNGカナダの通年稼働や米国シェールガス事業への参入が注目されます。LNGは長期契約、開発投資、販売先、価格フォーミュラ、操業安定性が重要です。短期的な資源価格だけでなく、案件が立ち上がるタイミングとキャッシュフロー化が利益に効きます。
三井物産は、総合商社の中でも金属資源とエネルギーの厚みが非常に大きい会社です。FY26予想では、基礎営業キャッシュフロー1兆500億円を見込み、資源・エネルギーを中心に強いキャッシュ創出力を維持します。一方で、資源価格が下がれば利益は押し下げられます。三井物産を見るときは、当期利益だけでなく、鉄鉱石、原料炭、LNG、原油・ガス、持分法投資損益、操業数量、為替感応度を合わせて確認する必要があります。
丸紅は、資源の会社という印象は三菱商事や三井物産ほど強くありませんが、銅を中心としたNatural Resourcesも重要です。FY26では、Natural Resourcesのコア営業キャッシュフローは小幅減を見込みますが、銅権益の拡張により2027年以降の供給力拡大を狙います。銅は電化、再エネ、送配電、データセンター、EVに関わるため、中長期では需要テーマが強い資源です。
住友商事も、資源の影響を受けます。FY26予想では、資源セグメントが増益を見込み、アルミのマージン拡大、銅事業の生産増、豪州石炭事業の販売数量回復が要因として示されています。住友商事は三井物産ほど資源大手という見方をされませんが、資源価格や数量は全社利益にしっかり効きます。
双日は、豪州石炭事業の悪化が2026年3月期の大きな減益要因になりました。FY26では金属・資源・リサイクルの当期純利益を38億円から220億円へ回復させる計画です。規模は大手3社より小さいものの、全社利益に対する振れは大きいため、資源市況と構造改革の進捗を分けて見る必要があります。
資源価格を考える場合、単純に「資源高なら総合商社にプラス」と見るだけでは足りません。各社の資源ポートフォリオ、価格感応度、契約形態、操業コスト、数量、持分比率、減損リスク、税金、為替が違うからです。資源価格が同じ方向に動いても、三菱商事、三井物産、丸紅、住友商事、双日の利益への効き方は異なります。
資源事業の比較は、以下の記事でも整理しています。
FY26予想では、資源価格そのものよりも、資源から得たキャッシュをどこに再投資するかも重要です。三菱商事は経営戦略2027、三井物産は成長投資、丸紅はGC2027とSPB、住友商事は事業ポートフォリオ変革、双日はKATIモデルへつなげようとしています。
非資源で見ると伊藤忠商事・豊田通商・住友商事の違いが出る
非資源の見方も、会社ごとにかなり違います。伊藤忠商事は、非資源比率の高さで語られることが多い会社です。FY26では、当期純利益9,500億円、基礎収益9,000億円を計画し、非資源比率は80%程度を見込みます。2026年3月期の85%からは下がりますが、これは非資源が弱くなるというより、金属の回復や投資拡大も反映した結果です。
伊藤忠商事の非資源の強さは、ファミリーマート、CTC、伊藤忠食品、ほけんの窓口、ポケットカード、住生活、繊維、食料など、川下に近い事業会社を運営している点にあります。FY26では、日立建機、北米電力、伊藤忠食品、サンフロンティア不動産などへの投資も進めます。非資源を守るだけでなく、非資源を土台に次の投資へ進む計画です。
豊田通商の非資源は、伊藤忠商事とは性格が違います。トヨタグループとの関係を背景に、モビリティ、部品物流、車両販売、アフリカ、再エネ、サーキュラーエコノミー、半導体・電子部品を組み合わせます。FY26では、モビリティが639億円から690億円、アフリカが940億円から980億円、グリーンインフラが179億円から300億円、サーキュラーエコノミーが448億円から510億円へ増益を見込みます。
住友商事の非資源では、デジタル・AIが大きな論点です。SCSK完全子会社化、ネットワンシステムズ連結化、DAIS戦略により、デジタル・AIグループの収益貢献が高まります。FY26では、SCSK持分損益が大きく増え、デジタル・AIグループの当期利益も伸びる計画です。住友商事は、リース、不動産、メディア、建機、エネルギー、資源といった事業を持ちますが、SCSKを軸にしたデジタル変革は、他社との違いが出やすい領域です。
丸紅の非資源は、SPBという言葉で整理されています。電力、アグリ、航空機アフターマーケット、食品、IT、医薬品販売など、強い事業領域を選び、コア営業キャッシュフローを伸ばす方針です。伊藤忠商事のように巨大な小売・IT事業会社を前面に出すというより、収益性とキャッシュ創出力のある事業群を磨く設計です。
三菱商事の非資源では、三菱食品の完全子会社化、モビリティ、電力、都市開発、食品流通が重要です。FY26予想では、資源・エネルギーの復調だけでなく、非資源の事業再編も大きな意味を持ちます。三菱食品の完全子会社化は、食品流通の収益をより深く取り込む動きです。
非資源を比較するときは、比率だけで判断しないことが大切です。伊藤忠商事の非資源、豊田通商のモビリティ・アフリカ、住友商事のデジタル・AI、丸紅のSPB、三菱商事の食品流通・モビリティは、それぞれ違う競争環境にあります。非資源と一口に言っても、小売、IT、物流、車両販売、電力、食品、金融、不動産では、利益率、投資回収、在庫、与信、オペレーションのリスクが異なります。
総合商社の非資源事業を整理する際は、以下の記事も参考になります。
https://shousha.net/sogo-shosha-convenience-store-business/
FY26予想では、非資源の厚みが単なる安定収益ではなく、次の成長投資の受け皿になっているかどうかが重要になります。
キャッシュフローで見ると三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・丸紅が強い
総合商社の業績予想では、当期利益だけでなく、キャッシュフローを確認する必要があります。投資会社のように会計上の評価益だけで利益が動くわけではありませんが、総合商社も資産売却益、一過性損益、持分法投資損益、減損によって当期利益が揺れます。そのため、本業からどれだけキャッシュを生んでいるかが重要です。
三菱商事は、FY26に営業収益キャッシュフロー1兆2,500億円を見込みます。2026年3月期実績の1兆481億円から約2,019億円の増加です。連結純利益1兆1,000億円に加えて、営業収益キャッシュフローが伸びる点は、経営戦略2027の進捗を見るうえで重要です。
三井物産は、基礎営業キャッシュフロー1兆500億円を見込みます。2026年3月期実績の9,789億円から711億円の増加です。三井物産は、資源・エネルギーの厚みにより、キャッシュ創出力が非常に強い会社です。利益が市況に揺れる面はありますが、投資原資を生む力は大きいです。
伊藤忠商事は、実質営業キャッシュ・フロー1兆円規模を見込みます。非資源中心の高効率経営を維持しながら、成長投資1.5兆円規模と自己株式取得3,000億円以上を同時に進める計画です。投資と還元を両立するには、実質営業キャッシュ・フローの安定が必要です。
丸紅は、コア営業キャッシュフロー6,600億円を見込みます。連結純利益5,800億円に対して、キャッシュフローを強く意識している点が特徴です。GC2027では、コア営業CF2.0兆円、売却7,000億円、投資・CAPEX等1.7兆円、株主還元6,000億円という資本配分を示しています。
豊田通商は、税後利益4,000億円を見込みますが、FY26予想では豊田自動織機株式売却を背景とした大規模な自己株式取得も重要です。キャッシュフローだけでなく、政策保有株式の見直しと資本効率改善がテーマになります。
双日は、基礎的営業キャッシュフロー1,500億円、基礎的キャッシュフロー▲110億円を見込みます。新規投資を継続するため、基礎的キャッシュフローはなおマイナス圏ですが、前期の▲279億円からは改善します。投資先行型の計画であり、営業CFと資産入替の両方が必要です。
総合商社のキャッシュフローは、会社ごとに名称が異なります。営業収益キャッシュフロー、基礎営業キャッシュフロー、実質営業キャッシュ・フロー、コア営業キャッシュフロー、基礎的営業キャッシュフローなど、指標名は違います。しかし、共通して見たいのは、事業から稼ぐ現金、資産入替による回収、新規投資、株主還元、財務健全性のバランスです。
FY26では、利益が伸びる会社ほど、キャッシュフローの裏付けがあるかを確認する必要があります。特に三菱商事の1兆1,000億円、三井物産の9,200億円、伊藤忠商事の9,500億円は、利益だけでなくキャッシュ創出力の差も比較したいところです。
一過性損益と資産入替の扱いに各社の個性が出る
FY26予想では、一過性損益と資産入替の見方も重要です。総合商社は、資産を持ち続けるだけではなく、低収益資産や戦略適合性の低い事業を売却し、成長領域へ資本を移します。その過程で、売却益や評価益、減損、撤退損が発生します。
三菱商事は、リサイクル・特殊要因を2,800億円としています。これはFY26の連結純利益1兆1,000億円の中でかなり大きな要素です。三菱商事のFY26は、巡航的な収益力の回復と、資産入替・特殊要因の両方で1兆円台へ戻す計画と読めます。
伊藤忠商事は、基礎収益9,000億円、一過性損益900億円、バッファー400億円という形で利益計画を整理しています。これは非常に分かりやすい開示です。基礎収益がどれだけ伸びているか、一過性損益がどの程度計画に含まれるか、リスクバッファーをどれだけ置いているかを分けて見ることができます。
住友商事は、資産入替関連及び特殊損益を2025年度720億円、FY26は400億円としています。過去に大型減損を経験してきた住友商事にとって、資産入替と特殊損益の管理は重要です。FY26では、バッファーを置きながら、基礎的収益を伸ばす計画になっています。
丸紅は、FY2025に投資3,368億円、売却5,009億円を実行し、GC2027でも売却7,000億円を計画しています。低ROIC資産を売却し、SPBなど勝ち筋のある事業へ資本を振り向ける考え方です。丸紅は、資産入替を単なる売却益ではなく、資本効率改善の手段として前面に出しています。
双日は、2026年3月期に鉄道車両リース、ナイジェリアガス小売事業、さくらインターネットの一部売却、政策保有株式の売却などで資産入替を進めました。FY26では、資産入替・回収1,000億円を見込みます。成長投資を続けるため、資産入替は資金源としても重要です。
資産入替で注意したいのは、売却益が出た翌期に利益の穴が空く場合があることです。たとえば、エネルギー事業で売却益が出れば、その年度の利益は押し上げられます。しかし、売却した事業が毎年利益を生んでいたなら、翌期以降はその利益がなくなります。したがって、売却後の資金をどの事業へ再投資し、どれだけ早く利益化できるかが重要です。
FY26比較では、三菱商事のリサイクル・特殊要因、伊藤忠商事の一過性損益とバッファー、住友商事の資産入替関連及び特殊損益、丸紅の売却とSPB投資、双日の資産入替・回収を同じ土俵で見ると、各社の資本配分の違いが見えてきます。
株主還元は全社で強いが、財源と設計が違う
総合商社7社は、いずれも株主還元を強く意識しています。ただし、還元の財源と設計は異なります。
三菱商事は、FY26の年間配当を125円とし、2026年3月期の110円から15円増配を見込みます。連結純利益1兆1,000億円、営業収益キャッシュフロー1兆2,500億円を背景に、増配余力を示す形です。資産入替や特殊要因も含むため、還元の持続性を見るには、営業収益キャッシュフローと巡航利益の確認が必要です。
三井物産は、FY26の年間配当を140円とし、2026年3月期の115円から25円増配を見込みます。基礎営業キャッシュフロー1兆500億円という強いキャッシュ創出力が還元の支えです。三井物産の場合、資源価格の変動を受けながらも、累進配当を維持するには、資源・非資源のキャッシュ創出力が重要になります。
伊藤忠商事は、FY26に配当44円以上、自己株式取得3,000億円以上、総還元性向64%程度を予定しています。これは非常に強い還元姿勢です。非資源中心の高効率経営、実質営業キャッシュ・フロー1兆円規模、資産入替、財務レバレッジを組み合わせて、投資と還元を同時に進めます。
住友商事は、分割前ベースで年間配当160円、自己株式取得700億円を予定しています。総還元性向40%以上と累進配当を継続します。バッファーを織り込んだうえで過去最高益を目指すため、還元の安定性とリスク管理の両方を示す計画です。
丸紅は、FY26の年間配当を115円とし、累進配当を意識した増配を予定しています。GC2027では株主還元6,000億円を資本配分に組み込んでいます。丸紅の場合、コア営業キャッシュフローと資産売却が還元の財源になります。
豊田通商は、年間配当125円を見込みます。さらに、豊田自動織機株式売却を背景に6,636億円の自己株式取得を予定し、総還元性向は195.2%予想です。これは通常の利益水準だけでは説明できない、政策保有株式見直しを伴う大規模還元です。
双日は、年間配当180円を予想しています。2026年3月期の165円から15円増配です。3年間累計の基礎的営業キャッシュフローの30%程度を還元に充て、DOE4.5%を意識した累進的・安定的な配当を行う方針です。
総合商社の株主還元を見るときは、配当利回りや自己株式取得額だけでは不十分です。利益が一過性要因で膨らんでいるのか、キャッシュフローが支えているのか、成長投資を削っていないか、財務健全性が維持されているかを確認する必要があります。
FY26予想では、伊藤忠商事と豊田通商の還元インパクトが特に大きく見えます。一方、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅、双日は、利益・キャッシュフロー・資本政策のバランスを取りながら増配や自己株式取得を進める構図です。
ROEとROICで見ると高効率経営の差が出る
FY26予想では、ROEやROICも重要です。総合商社は、巨大な資産を持つビジネスです。利益額が大きくても、投下資本に対するリターンが低ければ、資本効率は高まりません。
三菱商事は、FY26にROE11.5%を見込み、経営戦略2027の12%以上に近づける計画です。2026年3月期実績は8.5%でしたので、利益回復と資本政策で改善を狙います。三菱商事の場合、巨大な資産ポートフォリオをどう磨き、変革し、創るかがROE改善の鍵です。
三井物産は、資源・エネルギーからの大きな利益とキャッシュフローを持つため、資本効率を維持しながら成長投資を続けることが課題です。資源市況が高い局面ではROEが上がりやすい一方、市況悪化時には利益が下がります。非資源投資や資産入替を通じて、利益の安定性を高める必要があります。
伊藤忠商事は、ROE約15%を見込みます。総合商社7社の中でも高い水準です。非資源中心の高効率経営、資産入替、川下事業、事業会社経営、財務レバレッジを組み合わせてROEを高く維持しています。ただし、FY26は成長投資1.5兆円規模へ踏み込むため、投資拡大後も高ROEを保てるかが焦点になります。
住友商事は、ROE13%程度を見込みます。過去に大型減損を経験してきた会社ですが、中期経営計画2026では資産効率改善を重視しています。SCSK、輸送機・建機、リース、不動産、資源、エネルギートランスフォーメーションの利益を積み上げつつ、課題事業を整理できるかが重要です。
丸紅は、ROICを重視する方向を強めています。GC2027では、低ROIC資産を売却し、Core SPBなど収益性の高い事業へ投資を振り向けます。丸紅のFY26は、連結純利益5,800億円だけでなく、コア営業キャッシュフロー6,600億円とROIC改善を合わせて見るべきです。
豊田通商は、FY26にROE13.5%以上を見込み、2028年3月期の15%以上へ向けて改善を狙います。モビリティ、アフリカ、再エネ、サーキュラーエコノミーは投資を必要とする領域ですが、トヨタグループとの関係や現地販売網を活かせれば、資本効率を高められます。
双日は、FY26にROE12%を見込みます。中期経営計画2026が掲げる3年平均ROE12%超に向けた重要な年度です。CROICも重視しており、基礎的営業キャッシュフローを投下資本で割る見方を使っています。双日の場合、投資規模が大手より小さい分、個別案件の成否がROEやCROICに出やすいです。
ROEやROICは、単年度の利益だけではなく、資産入替、減損、自己株式取得、為替、資本政策の影響を受けます。したがって、FY26の数値を見るときは、利益が増える理由と、資本がどれだけ効率的に使われているかをセットで考える必要があります。
為替前提はおおむね円安水準だが、会社ごとの影響は違う
FY26予想では、多くの会社が1ドル150円前後の為替前提を置いています。円安は、海外事業利益の円換算ではプラスになりやすい一方、輸入コストや国内需要にはマイナスに働く場合があります。総合商社の場合、海外子会社、持分法投資先、資源権益、トレード、輸入販売、在庫、外貨建て債務などが絡むため、為替の影響は単純ではありません。
三菱商事や三井物産は、海外資源・エネルギー事業の比重が高いため、円安による利益換算の影響が大きくなりやすいです。ただし、資源価格や税金、操業費、現地通貨も同時に動くため、為替だけで判断はできません。
伊藤忠商事は非資源比率が高いものの、海外事業や持分法投資先が多く、為替影響はあります。FY26計画では、為替や資源価格の直接的な増減要因は大きく見えませんが、金属、エネルギー・化学品、食料、機械、海外小売・金融で影響が出ます。
豊田通商は、モビリティ、アフリカ、部品物流、車両販売、再エネ、電子部品など、海外取引が多い会社です。為替は車両販売価格、仕入価格、現地利益の円換算、在庫評価に影響します。特にアフリカや新興国では、現地通貨や輸入規制も重要になります。
双日は、資料で1円の為替変動が売上総利益に年間約8億円、当期純利益に約3億円、自己資本に約20億円影響する感応度を示しています。会社規模を考えると無視できない影響です。
円安が総合商社に与える影響は、以下の記事でも整理しています。
FY26予想では、為替だけで大きく利益を作るというより、円安水準を前提にしながら、各社がどの事業で数量、マージン、事業会社利益、資産入替を伸ばすかが重要になります。
7社の成長テーマを一言で整理する
7社のFY26予想を一言で整理すると、三菱商事は「1兆円台回復とポートフォリオ再編」、三井物産は「資源・エネルギーの厚みとキャッシュ創出」、伊藤忠商事は「非資源高効率経営と投資拡大」、住友商事は「DAISとSCSKを含む基礎収益の成長」、丸紅は「SPBとコア営業キャッシュフロー」、豊田通商は「モビリティ・アフリカ・サーキュラー」、双日は「構造改革後の回復とKATIモデル」です。
三菱商事は、経営戦略2027の中で、資源・エネルギーと非資源の両方を使い、営業収益キャッシュフローを拡大しながら、連結純利益1兆1,000億円を目指します。三井物産は、資源・エネルギーの強さを維持しながら、生活産業、ウェルネス、インフラ、モビリティ・デジタルへ広げます。伊藤忠商事は、非資源の高ROE経営を土台に、成長投資1.5兆円規模と大規模還元を同時に進めます。
住友商事は、SCSKを軸にしたデジタル・AI、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーションで基礎的収益を伸ばし、過去最高益を目指します。丸紅は、7つのCore SPBを中心にコア営業キャッシュフローを伸ばし、低ROIC資産を入れ替えます。豊田通商は、トヨタグループとの関係を基盤に、アフリカ、再エネ、リサイクル、半導体・電子部品を伸ばします。双日は、前期に痛みが出た自動車や資源を改善し、航空・交通インフラ、エネルギーソリューション、化学、リテールで収益の塊を大きくしようとしています。
この違いは、採用広報や会社説明でもよく出ます。総合商社を比較するとき、事業領域を幅広く持つという共通点だけを見ると、各社の違いが見えにくくなります。しかし、FY26予想を読むと、どの会社がどの利益の作り方を選んでいるかがはっきりします。
会社別の詳細記事
各社のFY26予想は、個別の記事でも詳しく整理しています。会社ごとのセグメント、増減益要因、キャッシュフロー、株主還元を確認したい場合は、以下の記事を読むと流れがつかみやすくなります。
横断比較で全体像をつかみ、個別記事で各社の事業構造を見ると、総合商社のFY26予想はかなり理解しやすくなります。
まとめ
総合商社7社のFY26業績予想は、全体として増益基調です。しかし、その中身はかなり違います。三菱商事は、LNG、米国シェールガス、三菱食品、資産入替を使いながら連結純利益1兆1,000億円を目指します。三井物産は、資源・エネルギーの厚みと基礎営業キャッシュフロー1兆500億円を軸に9,200億円を見込みます。伊藤忠商事は、非資源と川下事業の強さを土台に9,500億円を計画し、成長投資と大規模還元を同時に進めます。
住友商事は、SCSK、DAIS、輸送機・建機、資源、エネルギートランスフォーメーションで基礎的収益を伸ばし、6,300億円を計画します。丸紅は、SPBとコア営業キャッシュフローを軸に5,800億円を見込みます。豊田通商は、モビリティ、アフリカ、グリーンインフラ、サーキュラーエコノミーを伸ばし、4,000億円を狙います。双日は、構造改革を経て、自動車、金属・資源、航空・交通インフラ、生活産業を改善し、1,300億円への回復を目指します。
FY26予想を見るうえで大切なのは、利益額のランキングだけではありません。資源価格にどれだけ左右されるか、非資源の利益がどれだけ安定しているか、一過性損益がどれだけ含まれるか、キャッシュフローが利益を支えているか、投資と還元のバランスが取れているかを合わせて見る必要があります。
総合商社は、同じ業界に見えても、利益の源泉はかなり違います。FY26予想は、その違いがよく表れた資料です。資源・エネルギーの大型案件で稼ぐ会社、非資源・川下で高効率に稼ぐ会社、デジタルやモビリティで事業会社を伸ばす会社、キャッシュフローと資産入替で次の成長領域へ資本を動かす会社。それぞれの違いを押さえることで、総合商社7社の見え方は大きく変わります。

