住友商事のDAIS戦略とは?SCSK・AI・事業現場をつなぐ新成長戦略をわかりやすく解説

住友商事が公表したDAIS戦略は、同社の今後の成長を理解するうえで重要なテーマです。DAISとは、Digital & AI Strategy、つまりデジタル・AI戦略を意味します。

ただし、ここでいうデジタル・AIは、単なる社内DXや業務効率化ツールではありません。住友商事が持つ世界中の事業現場、SCSKを中心とするデジタル実装力、グループ会社や顧客との接点を組み合わせ、総合商社としての収益力と資本効率を高めるための全社戦略です。

住友商事は、公式のDAIS(デジタル・AI戦略)説明会で、DAISのビジョンを「あらゆるビジネスの現場でデジタル・AIを駆使し、新たな価値創造モデルを構築することで、社会や産業の変革をリードする」と説明しています。

この表現だけを見ると抽象的に感じるかもしれません。しかし、内容を分解すると、住友商事が狙っていることはかなり明確です。

同社は、総合商社が長年蓄積してきた産業知見、取引先との関係、事業会社経営のノウハウ、サプライチェーン運営、投資判断の経験を、デジタル・AIによって再現性のある仕組みに変えようとしています。

つまりDAISは、「AIを導入します」という話ではありません。住友商事の事業現場をAIで強くし、その実装力をSCSKとともに高め、さらにグループ外にも展開できる事業モデルへ育てる戦略です。

DAISは総合商社の事業モデルを変える取り組み

総合商社の伝統的な強みは、トレード、投資、事業経営、資金力、グローバルネットワーク、人材にあります。住友商事も、金属、自動車、輸送機・建機、インフラ、メディア・デジタル、生活・不動産、資源・化学品など、多様な領域で事業を展開してきました。

こうした事業の現場には、膨大なデータと知見が蓄積されています。

たとえば、どの地域で需要が伸びるのか、どの顧客がどのタイミングで商品を必要とするのか、在庫をどこに置けば物流効率が高まるのか、どの事業会社に追加投資すべきか、どの案件で過去に損失が出たのか、といった情報です。

従来、こうした判断の多くは、担当者や事業部門の経験に支えられてきました。もちろん、現場感覚は商社の重要な競争力です。しかし、経験や暗黙知に依存しすぎると、組織全体で再現しにくくなります。

DAISは、この暗黙知をデータ化し、AIやシステムによって組織全体で使える形にする取り組みです。

総合商社は、事業領域が広い一方で、横断的な知見の活用が難しい側面もあります。ある地域、ある事業、ある商品で得たノウハウを、別の事業へ横展開できれば、グループ全体の競争力は高まります。DAISは、その横展開をデジタル・AIによって加速させる戦略といえます。

DAISを支える3つの柱

住友商事は、DAIS戦略を3つの柱で整理しています。

1つ目は、SCSKの成長です。

SCSKは、住友商事グループの中核ITサービス企業です。システム開発、基幹システム構築、クラウド、ネットワーク、セキュリティ、BPO、データセンター、運用保守などを幅広く手掛けています。住友商事は、SCSKをDAISの実装力を担う中心企業として位置付けています。

2つ目は、住友商事グループ自身の成長です。

住友商事本体やグループ会社の事業現場に、デジタル・AIを実装します。これにより、売上拡大、コスト削減、在庫削減、ワーキングキャピタル改善、投資判断の高度化、事業運営の効率化を進め、グループ全体の資本効率を高めます。

3つ目は、住友商事グループとSCSKの協業による成長です。

住友商事が持つ産業知見、顧客基盤、事業会社群と、SCSKが持つIT・AI・ネットワーク・セキュリティ機能を組み合わせ、新しいソリューションや事業モデルを作ります。住友商事グループを最初の導入先とし、そこで磨いた仕組みを外部市場へ展開する構想も含まれます。

この3本柱を見ると、DAISが単なるIT投資ではないことがわかります。SCSKを強くする。住友商事の既存事業を強くする。さらに、両者の協業で新しい収益機会を作る。この三段階で企業価値を高めようとしているのです。

定量目標はROICを1.0%引き上げること

今回のIRで特に注目すべきなのが、DAISの定量効果です。

住友商事は、DAISによって2030年度に2025年度比でROICを1.0%向上させることを目指しています。ROICとは、投下資本利益率のことです。簡単に言えば、事業に投じた資本からどれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す指標です。

総合商社は、多くの資本を使うビジネスです。資源開発、インフラ、都市開発、事業会社投資、航空機リース、物流網、エネルギー事業など、長期の投資を伴う案件が多くあります。そのため、利益額だけでなく、資本効率を高めることが重要になります。

DAIS説明会の質疑応答資料では、ROIC1.0%向上のうち、0.6〜0.7%程度はSCSKの独自成長、残りの0.3〜0.4%程度は住友商事グループの事業変革やSCSKとの協業によって達成する考えが示されています。

ここからわかるのは、DAISの中心にSCSKがあるということです。SCSKの成長が、住友商事全体の資本効率改善に大きく貢献する構造になっています。

一方で、DAISはSCSKだけの話ではありません。住友商事本体の事業現場にAIをどう実装するか。SCSKと協業して、どのような外部向けソリューションを作れるか。そこまで含めてDAISの成果が問われます。

SCSKがDAISの中核に置かれる理由

DAIS戦略を理解するうえで、SCSKの位置付けは非常に重要です。

SCSKは、住友商事グループのITサービス会社ですが、単なる社内システム子会社ではありません。日本の大手システムインテグレーターの一角であり、幅広い業界の顧客に対してシステム開発、運用、ネットワーク、セキュリティ、BPOなどを提供しています。

住友商事のDAIS説明会資料では、SCSKについて、2026年3月期時点で売上高7,803億円、営業利益863億円、従業員数21,015名の規模を持つ企業として紹介されています。また、2011年のSCSとCSKの統合以降、14期連続で増収増益を続けてきた実績もあります。

住友商事がDAISを全社戦略として打ち出せるのは、グループ内にSCSKという実装部隊があるからです。

多くの企業がAI戦略を掲げても、実際には外部のITベンダーやコンサルティング会社に頼らざるを得ません。もちろん、外部企業との連携も重要です。しかし、住友商事の場合、SCSKをグループ内に持つことで、事業現場の課題発見から、システム設計、AI実装、運用、改善、外販までを一体的に進めやすい構造があります。

これは総合商社として大きな特徴です。住友商事が持つ現場と、SCSKが持つ実装力を組み合わせることで、単なるデジタル導入ではなく、事業そのものを変える取り組みにしやすくなります。

SCSKの強みは「作って終わり」ではないこと

SCSKの強みは、システムを作ることだけではありません。企業の業務を理解し、基幹システムを設計し、導入後も運用・保守を続ける力にあります。

AI時代には、この運用まで含めた力がさらに重要になります。

生成AIを導入するだけなら、ツールを契約すれば始められます。しかし、大企業の実務でAIを使うには、それだけでは不十分です。

AIが参照してよいデータと参照してはいけないデータを分ける必要があります。顧客情報や機密情報をどう守るかも重要です。既存の基幹システムとどう連携するか、AIの回答を業務判断にどこまで使うか、誤回答が出た場合にどう補正するかも考えなければなりません。

つまり、AI導入は「便利なチャットボットを入れる」だけでは終わりません。業務設計、データ基盤、セキュリティ、内部統制、運用ルール、利用者教育まで含めて設計する必要があります。

SCSKは、こうした企業システムの設計・運用に強みを持っています。そのため、住友商事はSCSKをDAISの中核に置き、AI時代の事業変革を実装する役割を期待しています。

住友商事の事業現場は多様です。鉄鋼、モビリティ、都市開発、エネルギー、小売、通信、物流、インフラなど、それぞれ業務の構造が異なります。そうした複雑な現場にAIを実装するには、単なるツール導入ではなく、業務とシステムの両方を理解する力が必要です。

SCSKが目指すオファリングモデルへの転換

DAIS戦略の中で、SCSKは高成長・高収益のITカンパニーへ進化することを目指しています。

その中核にあるのが、受託開発中心のモデルから、オファリングモデルへの転換です。

従来のシステムインテグレーションは、顧客ごとの要望に応じてシステムを作る受託開発が中心でした。このモデルでは、案件ごとに人を投入し、個別に開発するため、売上は伸ばせても利益率が大きく上がりにくい面があります。

これに対して、オファリングモデルでは、業界や業務ごとに共通する課題を整理し、再利用可能なソリューションとして提供します。個別開発の比率を下げ、標準化されたサービスや製品を増やせれば、利益率を高めやすくなります。

DAIS説明会では、SCSKのクラウドERP「PROACTIVE」も重要な例として位置付けられています。PROACTIVEにAI機能を組み込み、住友商事グループで実際に使いながら、業界・業務別のテンプレートを磨いていく。そこで得た知見を外部顧客にも展開する。この流れが実現すれば、SCSKは単なる受託開発会社ではなく、業務変革ソリューションを持つIT企業へ進化できます。

住友商事にとっても、この変化は重要です。SCSKの利益率が上がれば、DAISが掲げるROIC向上に直接貢献します。さらに、住友商事グループ内で開発した仕組みを外部へ展開できれば、SCSK単体の成長だけでなく、住友商事グループ全体の新しい収益源にもなります。

AI駆動型開発がSCSKの収益性を変える可能性

SCSKは、AI駆動型開発の導入にも力を入れています。資料では、AI駆動型開発を2年以内に100%適用する目標が示されています。

AI駆動型開発とは、要件定義、設計、コーディング、テスト、保守、運用といったシステム開発の各工程にAIを活用し、生産性と品質を高める取り組みです。

ITサービス会社にとって、人件費は大きなコストです。開発や保守の生産性が上がれば、同じ人数でより多くの案件をこなせるようになります。品質が安定すれば、手戻りや障害対応の負担も減ります。

ただし、AIを使えば自動的に利益率が上がるわけではありません。AIによって生産性が上がった分を、価格競争で顧客に還元しすぎれば、利益率改善にはつながりません。SCSKが重要なのは、AIで効率化した分を、より高付加価値な提案、オファリングモデル、継続収益型サービスへつなげることです。

住友商事がSCSKに期待しているのは、単なる開発効率化ではありません。AIを使ってSCSK自身の収益性を高めると同時に、住友商事グループの事業変革を支えることです。

ネットワンシステムズとの組み合わせ

SCSKを語るうえでは、ネットワンシステムズとの組み合わせも重要です。

ネットワンシステムズは、ネットワーク、クラウド、セキュリティ、インフラ領域に強みを持つ企業です。AI活用が進むほど、企業には高度なネットワーク環境、データ基盤、クラウド環境、サイバーセキュリティが必要になります。

SCSKが業務システムやアプリケーションに強みを持ち、ネットワンシステムズがネットワーク・セキュリティ・インフラに強みを持つ。この組み合わせにより、SCSKグループは、アプリケーションからインフラ、セキュリティ、運用までを一体で提供しやすくなります。

AI時代の企業変革では、アプリケーションだけを導入しても不十分です。データが安全に流れ、適切に蓄積され、必要な人だけがアクセスでき、システム全体が安定して動く必要があります。

住友商事グループには、海外事業会社、製造・物流・小売・インフラ関連会社など、多様な現場があります。そこにAIを導入するには、単なるアプリ開発だけでなく、安全で安定したデジタルインフラが必要です。SCSKとネットワンシステムズの組み合わせは、その土台になります。

SCSKは住友商事の外部委託先ではなく共創パートナー

DAIS戦略では、SCSKは単なるシステム開発の委託先ではありません。住友商事の事業現場と一緒に、新しい事業やソリューションを作る共創パートナーです。

この違いは重要です。

従来であれば、商社の各事業部が「こういうシステムがほしい」と要件を出し、IT会社がそれを作るという関係になりがちでした。しかしDAISでは、住友商事とSCSKが最初から一緒に事業課題を見つけ、解決策を作り、それを住友商事グループ内で使い、さらに外部市場へ展開することを目指しています。

たとえば、鉄鋼サプライチェーンの高度化であれば、住友商事側は業界知見、顧客接点、在庫・物流・契約・価格交渉の実務を持っています。SCSK側は、データ基盤、AI、システム設計、運用の知見を持っています。両者が組むことで、単なる在庫管理システムではなく、商社の実務に即したサプライチェーン最適化ソリューションを作れる可能性があります。

都市開発でも同じです。住友商事は開発案件や地域パートナーを持ち、SCSKはデータ・ネットワーク・アプリケーションを提供できます。交通、エネルギー、防災、商業、住民サービスをデジタルでつなげれば、都市運営型のビジネスへ発展する余地があります。

このように、SCSKはDAISにおいて「住友商事のITを支える会社」ではなく、「住友商事の産業知見をデジタル事業に変える会社」として位置付けられています。

住友商事グループ自身のAI活用

DAISの2つ目の柱は、住友商事グループ自身の成長です。

ここで大切なのは、住友商事が基盤モデルを作る会社を目指しているわけではないという点です。OpenAIやGoogleのように大規模言語モデルそのものを開発するのではなく、AIを事業現場へ実装する側に立っています。

住友商事の強みは、現実の産業現場を持っていることです。鉄鋼、エネルギー、小売、都市開発、インフラ、通信、半導体、物流、モビリティなど、AIを実際に使える場所を持っています。

資料では、住友商事グループにおけるAI活用例として、投融資ライフサイクルAIプラットフォーム、鋼管サプライチェーンの高度化、都市開発におけるデジタルエコシステム、再生可能エネルギーの需給バランシング、小売ビジネスの高度化、海底通信ケーブル、データセンター、半導体関連事業などが挙げられています。

たとえば、投融資ライフサイクルAIプラットフォームでは、過去30年分、約1,500件の投融資委員会議事録や経営会議の結論、損失発生・分析報告書などを統合し、過去案件の論点や結果を検索・分析できる仕組みを構築しています。

総合商社にとって、投資判断は中核機能です。過去の成功案件、失敗案件、撤退判断、損失分析をAIで活用できれば、新規投資の質を高める可能性があります。これは単なる業務効率化ではなく、商社の事業判断そのものを高度化する取り組みです。

また、鋼管ビジネスでは、長年蓄積してきたサプライチェーンデータや業界知見を活用し、在庫、物流、需要、供給をより高度に管理する構想が示されています。商社が実際に扱っているサプライチェーン、在庫、受発注、物流、顧客対応にAIを組み込もうとしている点が重要です。

DAISは暗黙知を組織知に変える戦略

DAISの本質を一言で言えば、住友商事の暗黙知を形式知・組織知に変える戦略です。

総合商社には、長年の経験で蓄積された多くの知見があります。どの市場に投資すべきか。どの顧客の需要が伸びるか。どの国で規制リスクが高いか。どの事業会社に追加投資すべきか。どのタイミングで撤退すべきか。こうした判断は、過去の経験と現場感覚に支えられています。

しかし、暗黙知のままでは、担当者が異動したり、事業環境が変わったりすると、組織として活用しにくくなります。DAISでは、そうした知見をデータ化し、AIで検索・分析し、組織全体で使える形に変えることを狙っています。

これは、総合商社の競争力を根本から高める可能性があります。なぜなら、商社の価値は、単に資金を投じることではなく、どの事業に、どのタイミングで、どのパートナーと、どのように関与するかを判断する力にあるからです。

DAISによって投資判断や事業運営の質が上がれば、ROIC向上につながります。反対に、AI導入が業務効率化だけにとどまれば、DAISのインパクトは限定的です。

Dグレードによる人材育成

DAISを実行するには、SCSKの技術者だけでは足りません。住友商事本体の営業部門、事業部門、コーポレート部門、海外拠点、事業会社の人材が、デジタル・AIを理解し、現場課題と結びつける必要があります。

そこで導入されているのが、デジタルスキル認定制度「Dグレード」です。

Dグレードは、全役職員を対象にデジタルスキルを可視化する制度です。単に研修を受けたかどうかではなく、実際に事業現場へ導入した経験や、要件定義、データガバナンス、事業構想力などが重視されます。

これは、総合商社のデジタル戦略として重要です。商社のDXは、IT部門だけでは進みません。現場の顧客、商品、契約、物流、在庫、規制、採算を理解する人が、デジタル・AIで何を変えるべきかを考える必要があります。

たとえば、鋼管ビジネスで在庫最適化をするなら、単にAIモデルを作ればよいわけではありません。納期、品質、顧客の操業計画、港湾・倉庫・輸送、為替、価格条件、与信、契約条件などを理解しなければ、実務で使える仕組みにはなりません。

DAISにおける人材育成は、AIツールを使える人を増やすことではなく、事業を理解したうえでAIを実装できる人材を増やすことです。

協業で外部市場へ広げる

DAISの3つ目の柱は、住友商事グループとSCSKの協業です。

住友商事は2026年4月にデジタル・AIグループを新設し、デジタル関連組織や人材を集約しました。SCSK側も、住友商事との連携を加速するために、SC共創推進本部を新設しています。

この体制整備により、住友商事の事業現場とSCSKの技術をつなぎ、具体案件を推進する仕組みが作られました。

協業の考え方は大きく3つあります。

第一に、住友商事の事業現場とSCSKの技術を組み合わせることです。たとえば、鉄鋼領域のサプライチェーンマネジメントに、SCSKのデータ基盤やAIを組み合わせることで、在庫や物流の最適化を進める取り組みが考えられます。

第二に、両社が強い事業領域を組み合わせることです。質疑応答では、注目領域としてモビリティと都市開発が挙げられています。

モビリティ分野では、SCSKが持つ自動車ソフトウェアや品質保証・検証の知見と、住友商事が自動車分野で培ってきた事業基盤を組み合わせる可能性があります。自動車産業は、ソフトウェア、電動化、自動運転、コネクテッド、サブスクリプションなどにより、従来の完成車販売だけでは語れない産業へ変わっています。

都市開発分野では、デジタル技術を実装できる場があると説明されています。都市開発は、建物を作るだけではなく、エネルギー、交通、防災、物流、商業、住民サービス、データ基盤を含む総合事業になりつつあります。SCSKの技術を組み合わせれば、単なる不動産開発から、都市運営型のビジネスへ広げられる可能性があります。

第三に、ファーストカスタマー戦略です。住友商事グループが最初の顧客となり、SCSKと一緒にソリューションを作ります。その後、同じ課題を持つ外部企業へ横展開します。

これは総合商社にとって強力な戦略です。住友商事は多様な事業会社を持っているため、新しいソリューションの実証場所を自社グループ内に持っています。実際の現場で効果を確認したうえで外販できれば、説得力のあるビジネスになります。

DAIS戦略の注意点

DAISは魅力的な戦略ですが、注意点もあります。

第一に、AI導入にはコストがかかります。システム投資、人材育成、データ整備、セキュリティ対策、業務プロセス変更には時間と費用が必要です。短期的にはコストが先行する可能性があります。

第二に、すべての事業現場でAIが同じように効果を出すとは限りません。データが整っていない事業、業務が標準化されていない事業、現場の協力が得にくい事業では、導入効果が限定的になる可能性があります。

第三に、SCSKの高成長目標には実行リスクがあります。AI駆動型開発やオファリングモデルへの転換が進んでも、顧客の投資動向、競争環境、人材採用、ネットワンシステムズとの統合効果によって成果は変わります。

第四に、協業案件の外販化には時間がかかります。住友商事グループ内でうまくいった仕組みが、そのまま外部顧客に売れるとは限りません。業界ごとの商習慣、システム環境、投資余力、競合サービスとの比較が必要です。

第五に、AIガバナンスとセキュリティも重要です。AIを業務や意思決定に組み込むほど、情報漏洩、誤判断、説明責任、権限管理、モデルの偏りなどのリスクが高まります。SCSKとネットワンシステムズの機能を生かし、安全に運用できる仕組みを作れるかが重要です。

まとめ

住友商事のDAIS戦略は、デジタル・AIを活用して、SCSKの成長、住友商事グループ本体のROIC改善、両社協業による新収益創出を目指す全社戦略です。

重要なのは、DAISが単なる社内DXではないことです。住友商事が持つ産業現場と、SCSKが持つデジタル実装力を組み合わせ、商社の暗黙知を再現性ある仕組みに変えようとしています。

SCSKは、DAISの中心にある企業です。AI駆動型開発、オファリングモデルへの転換、PROACTIVEの強化、ネットワンシステムズとの連携により、高成長・高収益のITカンパニーへ進化することを目指しています。

住友商事本体では、投融資判断、鋼管サプライチェーン、都市開発、再生可能エネルギー、小売、データセンターなど、多様な事業現場にAIを実装しようとしています。これにより、売上拡大、コスト削減、在庫削減、資本効率改善を進める構想です。

さらに、住友商事グループを最初の導入先として使い、SCSKとともに磨いたソリューションを外部市場へ展開できれば、DAISは新しい収益源にもなります。

DAISの成否は、SCSKの利益成長、住友商事グループ内でのAI実装効果、協業案件の外販化、そしてROIC改善としてどれだけ数字に表れるかで判断されます。

住友商事は、総合商社としての事業現場と、SCSKのデジタル・AI機能を組み合わせることで、従来の投資・トレード中心の成長モデルを進化させようとしています。DAISは、その変化を象徴する戦略だといえます。