豊田通商のFY26、すなわち2027年3月期の業績予想は、同社の特徴が非常に分かりやすく出ています。2026年4月30日に公表された2026年3月期 通期実績 2027年3月期 業績予想では、2027年3月期の税後利益を4,000億円としています。2026年3月期実績の3,705億円から295億円の増益です。
豊田通商を見るときに重要なのは、総合商社でありながら、トヨタグループとの関係、モビリティ、アフリカ、サーキュラーエコノミー、再生可能エネルギー、デジタルソリューションという軸がはっきりしている点です。三菱商事や三井物産のように資源・エネルギーの大型権益で語られる会社とは少し違います。豊田通商は、自動車生産・販売、部品物流、現地販売網、アフリカ事業、リサイクル、再エネ、半導体・電子部品を組み合わせながら、現場に近い商流と事業運営で利益を積み上げる会社です。
今回のFY26予想では、モビリティ、アフリカ、グリーンインフラ、サーキュラーエコノミーが増益の中心になります。一方、ライフスタイルは一過性利益の反動や市況軟調を受けて減益を見込んでいます。全体としては、税後利益4,000億円、ROE13.5%以上、年間配当125円、大規模な自己株式取得6,636億円という、成長と資本政策を同時に打ち出した内容です。
この記事では、豊田通商のFY26業績予想を、決算短信、決算説明資料、中期経営計画資料、有価証券報告書をもとに整理します。単なる利益予想ではなく、なぜモビリティとアフリカが同社の中心なのか、Radius Recyclingやユーラスエナジーが何を意味するのか、自己株式取得とROE改善をどう読むべきかを解説します。
| 項目 | 2026年3月期実績 | 2027年3月期予想 | 主な見方 |
|---|---|---|---|
| 税後利益 | 3,705億円 | 4,000億円 | 前期比295億円増。モビリティ、グリーンインフラ、アフリカ、サーキュラーが主な増益要因 |
| 営業利益 | 5,452億円 | 5,870億円 | 前期比418億円増。自動車生産・販売、リサイクル、再エネ需要が押し上げる |
| 売上総利益 | 1兆2,644億円 | 1兆3,320億円 | 前期比676億円増。自動車関連と各地域の取扱増が下支え |
| モビリティ | 639億円 | 690億円 | 欧州・豪亜向け自動車販売台数増加を見込む。豪州中古車MCT買収も中長期テーマ |
| アフリカ | 940億円 | 980億円 | CFAOを軸に自動車販売台数増加を見込む。中東情勢影響を織り込みながら増益計画 |
| グリーンインフラ | 179億円 | 300億円 | 前期の一過性損失反動、機械設備取扱増、再エネ需要増が増益要因 |
| サーキュラーエコノミー | 448億円 | 510億円 | リサイクル事業伸長とリチウム市況回復を見込む。Radius Recyclingが重要 |
| デジタルソリューション | 339億円 | 370億円 | メモリ価格上昇と半導体需要増を想定。次世代モビリティの知能化とも接続 |
| ライフスタイル | 207億円 | 160億円 | ウェルネス取扱増はあるが、市況軟調や一過性利益反動で減益を見込む |
| ROE | 12.8% | 13.5%以上 | 中期経営計画「次元上昇2028」の2年目として、28年3月期15%以上へ向けて改善を狙う |
| 年間配当 | 120円 | 125円 | 18期連続増配予定。累進配当を継続 |
| 自己株式取得 | – | 6,636億円 | 豊田自動織機株式売却を背景に大規模還元。総還元性向は195.2%予想 |
FY26予想の全体像
豊田通商のFY26予想は、税後利益4,000億円、営業利益5,870億円、売上総利益1兆3,320億円です。2026年3月期実績は、税後利益3,705億円、営業利益5,452億円、売上総利益1兆2,644億円でした。つまり、税後利益は295億円、営業利益は418億円、売上総利益は676億円の増加を見込んでいます。
2026年3月期の実績自体も、かなり強い内容でした。2026年3月期 決算短信では、収益が11兆5,619億円、営業活動に係る利益が5,452億円、親会社の所有者に帰属する当期利益が3,705億円となっています。前期比では、収益が12.1%増、営業活動に係る利益が9.7%増、親会社の所有者に帰属する当期利益が2.2%増です。
FY26予想の前提為替は、米ドル150円、ユーロ175円です。2026年3月期実績の換算レートは米ドル151円、ユーロ175円でしたので、為替だけで大きく押し上げる計画ではありません。むしろ、自動車販売台数の増加、リサイクル事業の伸長、再エネ需要、機械設備取扱増、メモリ価格上昇、アフリカでの販売拡大といった事業面の増益を織り込んでいます。
本部別に見ると、メタル+は431億円から440億円、サーキュラーエコノミーは448億円から510億円、サプライチェーンは528億円から550億円、モビリティは639億円から690億円、グリーンインフラは179億円から300億円、デジタルソリューションは339億円から370億円、ライフスタイルは207億円から160億円、アフリカは940億円から980億円の計画です。
この並びを見ると、豊田通商のFY26は「自動車関連の数量成長」「アフリカの販売網」「サーキュラーエコノミーの立ち上がり」「グリーンインフラの反動増と再エネ需要」「デジタル・半導体需要」が柱になります。資源価格そのものよりも、モノづくり、物流、販売、回収、再資源化、地域事業の実行力が問われる内容です。
総合商社のキャッシュフローや利益の見方を整理したい場合は、以下の記事も参考になります。
豊田通商のFY26予想では、利益水準だけでなく、どの領域の利益が増え、どの領域が一過性要因の反動を受けるのかを分けて見ることが重要です。
中期経営計画「次元上昇2028」とFY26の位置づけ
豊田通商は、2026年4月30日に次元上昇2028 28/3期中期経営計画2年目を公表しています。この中期経営計画では、2028年3月期に税後利益4,500億円、ROE15%以上、累計投資1.2兆円、総還元性向40%以上を目標にしています。FY26、すなわち2027年3月期は、その2年目です。
FY26の計画は、税後利益4,000億円、ROE13.5%以上、累計投資8,000億円、総還元性向195%とされています。総還元性向が非常に高く見えるのは、豊田自動織機株式売却を背景に、6,636億円の自己株式取得を予定しているためです。通常の配当性向だけではなく、政策保有株式の見直しと大規模な資本還元が組み合わさった年度と理解する必要があります。
中期経営計画で掲げる成長戦略は、四つの異能領域に整理されています。第一に、アフリカ事業とゴンドワナ経済圏への拡大。第二に、世界No.1のサーキュラーエコノミープロバイダー。第三に、ネクストモビリティの先導。第四に、重要性の高まる再生エネルギーです。豊田通商のFY26予想は、この四つの異能領域がどの程度数字に反映され始めているかを見る年度です。
投資面では、3年累計1.2兆円の成長投資を掲げ、2026年3月期時点で4,055億円まで進捗しています。今後2年で7,945億円の投資を予定し、アフリカ、サーキュラーエコノミー、ネクストモビリティ、再エネ基盤事業に資本を振り向けます。これは、単に既存事業を守るのではなく、モビリティの変化、資源循環、再エネ、アフリカの人口・経済成長を取り込む投資方針です。
一方で、事業ポートフォリオの見直しも明確です。資料では、戦略不適合事業からの撤退、化石燃料発電事業からの完全撤退、成長ピークアウト事業からの撤退、国内不動産事業からの撤退、低収益会社の体質改善・削減、政策保有株式の精査・売却を掲げています。成長投資の裏側には、やめる事業を見極め、投資原資と人的資本を再配分する考え方があります。
総合商社の資産入替や利益認識の考え方は、以下の記事でも整理しています。
豊田通商のFY26は、次元上昇2028の中間地点として、成長投資、資産入替、株主還元を同時に進める年度です。利益4,000億円という数字だけではなく、資本の使い方が大きく変わる点を押さえる必要があります。
モビリティは豊田通商の中心軸
豊田通商を理解するうえで、モビリティは中心軸です。FY26予想では、モビリティ本部の税後利益を639億円から690億円へ増やす計画です。主な要因は、欧州及び豪亜向けの自動車販売台数増加です。
2026年3月期の実績を見ると、モビリティ本部は前期比66億円増の639億円でした。短信では、豪亜を中心とした海外自動車販売台数増加が増益要因とされています。決算説明資料でも、地域別の小売台数や輸出台数が示されており、アジア・オセアニア、アフリカ、中近東・南西アジアなど、複数地域で販売網を持っていることが分かります。
豊田通商のモビリティは、単なる車両販売ではありません。車両輸出、現地販売、代理店、部品供給、物流、金融、アフターサービス、保険、中古車、電動化部品、電池材料、半導体など、モビリティバリューチェーン全体に関わります。トヨタグループとの関係を持ちながら、地域ごとの販売網や事業会社を運営している点が特徴です。
2026年2月には、オーストラリアで中古車の買取・販売事業を展開するMCT Automotive Groupを買収しました。豪州は人口増加を背景に中古車需要が見込まれる市場です。中古車は、新車販売とは異なり、在庫評価、査定、販売チャネル、オンライン活用、保証、金融が収益を左右します。豊田通商がモビリティバリューチェーンを広げるうえで、中古車領域は重要な接点になります。
また、モビリティの変化は電動化だけではありません。車載ソフトウェア、コネクテッド、SDV、半導体、電池、リサイクル、使用済み車両の回収まで含みます。中期経営計画では、ネクストモビリティを成長領域に掲げ、電池サプライチェーンや車載・SDV価値向上を投資テーマにしています。
豊田通商の強みを会社全体から確認したい場合は、以下の記事も参考になります。
FY26のモビリティ増益は、単年度の販売台数増加にとどまりません。トヨタグループとの関係を起点に、販売、部品、物流、中古車、電動化、半導体、データまで広げることで、モビリティバリューチェーンを厚くしていく流れの一部です。
アフリカは豊田通商の最大級の差別化要素
豊田通商のFY26予想で、アフリカ本部は税後利益940億円から980億円へ増益を見込んでいます。2026年3月期実績では、アフリカ本部は前期比145億円増の940億円でした。短信では、西アフリカ地域を中心とした自動車販売台数増加が増益要因とされています。
豊田通商のアフリカ事業は、CFAOが中核です。決算説明資料では、CFAOの営業利益内訳として、モビリティ、ヘルスケア、コンシューマー、インフラが示されています。2026年3月期は、CFAOの営業利益が1,226億円から1,436億円へ増加し、そのうちモビリティは1,103億円から1,253億円へ増えました。ヘルスケアも277億円から312億円へ増加しています。
2025年12月には、CFAO傘下のTOYOTA TSUSHO MANUFACTURING GHANAが、ガーナにおけるトヨタ自動車と日野自動車の代理店事業を譲り受けました。これにより、アフリカにおける豊田通商グループによる直営のトヨタ自動車代理店は36カ国目となっています。車両組立に加えて販売機能も持つことで、製造から販売、アフターサービス、保険まで含むバリューチェーンの強化につながります。
アフリカは、人口増加、都市化、所得向上、インフラ整備、医療需要、モビリティ需要が長期的に見込まれる地域です。一方で、為替、政治、治安、制度、物流、与信、所得水準などのリスクも大きい地域です。豊田通商は、長年の現地販売網とCFAOの事業基盤を使い、リスクを管理しながら成長を取り込もうとしています。
中期経営計画では、アフリカ事業の3倍成長とゴンドワナ経済圏への拡大が掲げられています。ゴンドワナ経済圏という表現には、アフリカだけに閉じず、インド洋周辺や新興国の成長地域を広く捉える意図があります。モビリティ、ヘルスケア、再エネ、消費財、インフラを複合的に展開する余地があります。
豊田通商の大型買収とCFAOの意味を時系列で見たい場合は、以下の記事も参考になります。
FY26のアフリカ予想は、中東情勢影響を織り込みながらも増益計画です。つまり、外部環境の不確実性を受けながらも、販売台数、直営網、ヘルスケア、コンシューマー、インフラを組み合わせて成長を続ける前提になっています。
サーキュラーエコノミーはRadiusが試金石になる
サーキュラーエコノミー本部は、FY26予想で448億円から510億円へ増益を見込みます。増益要因として、リサイクル事業の伸長とリチウム市況回復が挙げられています。中期経営計画では、世界No.1のサーキュラーエコノミープロバイダーを目指すとしています。
この領域で重要なのが、米国Radius Recyclingの完全子会社化です。Radiusは、米国、カナダなどに100カ所を超える再生資源回収拠点を持ち、米国オレゴン州に電炉も保有しています。豊田通商は、金属スクラップ、ELV、車載用電池の3領域を中心にシナジーを創出し、循環型静脈事業を拡大する方針です。
サーキュラーエコノミーは、総合商社にとって非常に商社らしい領域です。スクラップを回収し、選別し、品質を管理し、再生材として販売し、需要家へ安定供給するには、現場網、在庫、物流、品質管理、与信、販売先開拓が必要です。さらに、車載電池や使用済み車両のリサイクルでは、自動車メーカー、部品メーカー、素材メーカー、規制当局、解体業者との連携が欠かせません。
決算説明資料では、Radiusの連結後業績について、固定費削減が順調に推移し、非鉄スクラップ取扱数量増加、市況回復に伴うスプレッド良化、シナジー創出により業績改善と説明されています。2-4Q累計では、鉄・非鉄スクラップ、自動車パーツリサイクル、電炉、廃棄物処理仲介の各領域が示され、税後利益は7億円でした。まだ立ち上がり段階ですが、今後の収益安定化が問われます。
サーキュラーエコノミーの難しさは、市況とオペレーションの両方にあります。鉄・非鉄スクラップ価格が上がれば追い風になりますが、価格変動は在庫評価やスプレッドに影響します。回収網を広げても、品質管理や販売先の多角化が進まなければ利益は安定しません。固定費削減や拠点統合も重要です。
豊田通商がこの領域で強みを出せる理由は、モビリティとの接続です。車両販売、部品物流、使用済み車両、電池、素材、製造現場を持つため、回収から再資源化、再投入までのループを構築しやすい立場にあります。FY26は、Radiusを含むサーキュラー事業が、単なる買収案件から収益貢献へ進むかを見る年度になります。
グリーンインフラは再エネをつくるだけではない
グリーンインフラ本部は、FY26予想で179億円から300億円へ大きく増益を見込んでいます。主な要因は、一過性損失の反動、機械設備取扱増、再エネ需要増です。2026年3月期は国内発電事業における一過性損失などにより、前期比186億円減の179億円となりました。その反動もあり、FY26は増益を見込む形です。
豊田通商グループで再生可能エネルギーを担うユーラスエナジーホールディングスは、2025年4月にテラスエナジーと経営統合し、国内で風力・太陽光の発電容量が大きい発電事業者となりました。豊田通商は、再エネを「つくる」だけでなく、「集める・整える」「届ける」までバリューチェーンを拡大すると説明しています。
この表現は重要です。再エネ事業は、発電所を持てば終わりではありません。天候で出力が変動するため、蓄電池、需給調整、電力販売、PPA、系統制約対応、地域連携が必要になります。発電容量だけを増やしても、電力を安定的に届けられなければ価値は限定されます。
2026年3月期の短信では、豊田通商とユーラスエナジーが、北海道稚内市で風力発電由来の再生可能エネルギーを活用したグリーンデータセンター事業「宗谷グリーンデータセンターI」を開始すると説明しています。樺岡ウインドファームに隣接するデータセンターを建設し、風力発電から直接グリーン電力を供給する計画です。2026年4月に着工し、2027年中の本格稼働を目指します。
これは、再エネとデジタルインフラをつなぐ事例です。データセンターは電力需要が大きく、脱炭素電力へのニーズも高まっています。地方分散、系統負荷軽減、再エネ地産地消を組み合わせれば、発電事業単体よりも高い付加価値を作れる可能性があります。
ただし、グリーンインフラは投資額が大きく、金利、設備コスト、系統接続、制度変更、発電量、PPA価格の影響を受けます。FY26の増益予想は前期一過性損失の反動を含みますので、再エネ基盤事業としての持続的な収益力がどの程度高まるかは、今後の運営で確認する必要があります。
サプライチェーンとメタルはトヨタグループの生産を支える
豊田通商のFY26予想では、サプライチェーン本部が528億円から550億円、メタル+本部が431億円から440億円へ増益を見込んでいます。増益率は大きくありませんが、豊田通商の基礎収益を支える重要な領域です。
サプライチェーン本部では、自動車生産台数の増加が主な増益要因です。豊田通商は、自動車部品物流、海外生産支援、物流手配、部品供給、在庫管理、輸出入、現地調達支援を担います。自動車メーカーや部品メーカーにとって、部品が遅れれば生産ラインが止まります。そのため、商社の物流・在庫・調達管理は、単なる裏方ではなく、製造業の競争力を支える機能です。
メタル+本部では、自動車生産台数の増加を増益要因としています。2026年3月期には、米国Electra Steelへの出資も行いました。Electra Steelは、CO2排出量が少ない方法でグリーンスチールの原料となる電解鉄を製造する会社です。鉄鋼業界と自動車業界において、脱炭素化は避けられない課題です。豊田通商は、鋼材サプライチェーンだけでなく、グリーンスチールや電動化部材にも関わろうとしています。
2026年2月には、アイシン、Minth Group、豊田通商の3社が、カナダ・オンタリオ州にアルミボデー骨格部品の生産会社ATM Automotive Partsを設立しました。BEVやPHEVに搭載される電池を安全に保持する構造部品の需要増を見込み、北米での供給体制を強化する動きです。
このような事業は、派手な資源権益や大型小売事業に比べると見えにくいかもしれません。しかし、豊田通商の強みは、トヨタグループを中心とするモノづくりの現場に深く入り込み、部材、物流、加工、品質、納期、現地生産を支える点にあります。FY26予想でサプライチェーンとメタルが堅調に伸びることは、同社の基盤収益が自動車生産と連動していることを示します。
デジタルソリューションは半導体需要と車の知能化に接続する
デジタルソリューション本部は、FY26予想で339億円から370億円へ増益を見込んでいます。増益要因は、メモリ価格上昇と需要増加です。2026年3月期も、デバイス関連の取り扱い増加とICT事業の案件増加により、前期比32億円増の339億円となりました。
豊田通商のデジタルソリューションは、一般的なITサービスだけではありません。ネクスティエレクトロニクス、エレマテック、トーメンデバイスなどを通じて、半導体、電子部品、電子材料、ICT関連の商流を持っています。車の電動化、知能化、コネクテッド化が進むほど、半導体や電子部品の重要性は高まります。
中期経営計画でも、ネクストモビリティの知能化として、半導体供給の強みを生かし、SDV・コネクテッド事業の成長を加速する方向性が示されています。自動車は、機械部品の集合体から、ソフトウェアと半導体を大量に使う移動体へ変わっています。商社としては、部品を調達するだけでなく、サプライチェーンリスク、在庫、需要予測、設計段階での提案、複数メーカーとの関係を管理する必要があります。
デジタルソリューションのリスクは、半導体市況の変動です。メモリ価格が上がれば追い風になりますが、需給が緩めば利益は圧迫されます。また、電子部品は在庫サイクルの影響を受けやすく、顧客の生産調整も業績に影響します。FY26予想では増益を見込みますが、半導体需要の質と在庫管理が重要です。
豊田通商にとって、デジタルソリューションはモビリティと切り離せません。車の知能化、再エネとデータセンター、工場の自動化、物流の可視化、アフリカのデジタルサービスなど、他セグメントと組み合わせて価値を作る余地があります。
ライフスタイルは減益予想だが、ウェルネスと食料は残る
ライフスタイル本部は、FY26予想で207億円から160億円へ減益を見込んでいます。主な説明は、ウェルネス事業の取扱増加がある一方で、市況軟調や一過性利益の反動があるというものです。2026年3月期は、南米食料事業の市況上昇、保険事業取扱増加、国内不動産事業の一過性利益などにより、前期比54億円増の207億円でした。
ライフスタイルには、食料、保険、ウェルネス、不動産、素材・衣料関連などが含まれます。2026年3月期の決算説明資料では、ウェルネス事業主要子会社、ブラジルのNOVAAGRI、OLEOS MENU、豊通食料などの利益が示されています。NOVAAGRIはブラジルで穀物輸出・物流インフラを担い、OLEOS MENUは綿実油製造・販売を行います。
この領域は、豊田通商のモビリティやアフリカほど目立たないかもしれません。しかし、食料、保険、医療・ウェルネスは、地域事業や生活者接点とつながります。特にアフリカのCFAOでもヘルスケア事業が伸びており、ライフスタイル単体ではなく、地域戦略と組み合わせて見る必要があります。
一方で、FY26は一過性利益の反動があるため、ライフスタイルの減益が全社増益を一部相殺します。総合商社の業績予想では、全セグメントが均等に伸びるわけではありません。豊田通商も、モビリティ、アフリカ、サーキュラー、グリーンインフラが伸びる一方、ライフスタイルは調整局面に入る計画です。
株主還元は豊田自動織機株式売却とセットで読む
豊田通商のFY26予想で最も目を引く数字の一つが、自己株式取得6,636億円です。年間配当は120円から125円へ増配し、18期連続増配を予定しています。総還元性向は195.2%予想です。通常の事業年度としては非常に高い水準ですが、これは豊田自動織機株式売却を背景にしています。
決算短信では、個別業績において、豊田自動織機の普通株式すべてを2026年3月期に売却したことにより、投資有価証券及び出資金売却益が前期比2,637億円増加したと説明されています。中期経営計画資料でも、キャピタルアロケーションの中に持合株式の解消、豊田自動織機株式売却、自己株式取得、累進配当継続が位置づけられています。
ここで重要なのは、豊田通商が単に大きな還元をするだけではなく、政策保有株式を見直し、資本を成長投資と株主還元へ振り向けている点です。2026年3月期から2028年3月期において、累進配当を継続し、自己株式取得を含む総還元性向40%以上を目指す方針を掲げています。FY26は、豊田自動織機株式売却の影響により、通常年度を大きく超える総還元性向になります。
総合商社の株主還元を比較したい場合は、以下の記事も参考になります。
ただし、株主還元は一時的な売却原資だけで評価するものではありません。大規模な自己株式取得は、1株当たり利益やROEにプラスに働きますが、将来の成長投資に必要な資金を削りすぎると、長期成長力を損ないます。豊田通商の場合、中期経営計画で1.2兆円の成長投資も掲げていますので、還元と投資を両立できるかが重要です。
豊田通商のキャピタルアロケーションでは、営業キャッシュフロー1.4兆円以上、財務キャッシュフロー0.6兆円以上、投資1.2兆円以上、株主還元1.0兆円以上が示されています。ネットDER0.8倍以内、RA/RB1.0倍未満という財務健全性も掲げています。成長投資、還元、財務規律を同時に満たすことが、FY26以降の評価につながります。
FY26予想のリスク要因
豊田通商のFY26予想は、全体として増益計画ですが、リスクも複数あります。
第一に、自動車販売と生産のリスクです。豊田通商はモビリティ、サプライチェーン、メタル、アフリカの多くで自動車関連の需要と連動します。販売台数が伸びれば利益は増えやすい一方、景気悪化、金利上昇、為替、地政学、関税、部品不足、EVシフトの速度変化によって、販売や生産は影響を受けます。
第二に、アフリカ事業のリスクです。アフリカは成長余地が大きい一方、為替、政治、治安、規制、物流、与信、所得水準の制約があります。CFAOの事業基盤は大きな強みですが、国ごとの事業環境は一様ではありません。FY26予想では中東情勢影響も織り込んでおり、外部環境の変化を見ながら読む必要があります。
第三に、サーキュラーエコノミーの立ち上げリスクです。Radius Recyclingは大きな買収案件であり、固定費削減、販売先多角化、拠点運営、スクラップ市況、電炉運営、シナジー創出が問われます。リサイクル事業は成長テーマですが、市況と現場運営の両方が利益に影響します。
第四に、グリーンインフラの収益変動です。再エネは長期テーマですが、制度、金利、設備コスト、発電量、系統制約、PPA価格の影響を受けます。FY26は前期の一過性損失反動もあるため、増益の質を確認する必要があります。
第五に、資本政策の持続性です。FY26の大規模自己株式取得は、豊田自動織機株式売却を背景にしています。これは資本効率改善に寄与しますが、毎年同じ規模で続くものではありません。将来の還元を見る際は、営業キャッシュフロー、投資回収、成長投資の成果、財務規律とセットで確認する必要があります。
豊田通商のFY26予想は「異能領域」を数字で試す年度
豊田通商のFY26業績予想をまとめると、税後利益4,000億円、営業利益5,870億円、売上総利益1兆3,320億円、ROE13.5%以上、年間配当125円、自己株式取得6,636億円という内容です。利益面では、2026年3月期実績から増益を見込み、中期経営計画「次元上昇2028」の最終年度にあたる2028年3月期の税後利益4,500億円へ向かう途中段階になります。
事業面では、モビリティとアフリカが引き続き中心です。モビリティでは、欧州・豪亜の自動車販売増、中古車、電動化、SDV、半導体、部品物流がつながります。アフリカでは、CFAOを軸に、自動車販売、ヘルスケア、コンシューマー、インフラを展開します。これらは、豊田通商が他の総合商社と差別化しやすい領域です。
さらに、サーキュラーエコノミーとグリーンインフラも重要です。Radius Recyclingは、資源循環事業の試金石です。ユーラスエナジーや宗谷グリーンデータセンターは、再エネを発電だけでなく、データセンターや地域インフラと結びつける動きです。デジタルソリューションは、半導体需要と車の知能化を支えます。
豊田通商の歴史やトヨタグループとの関係をあわせて確認したい場合は、以下の記事も参考になります。
FY26予想を見るうえでの核心は、税後利益4,000億円を達成するかどうかだけではありません。モビリティ、アフリカ、サーキュラー、再エネという異能領域が、実際に資本コストを上回るリターンを生み、ROE15%以上の中期目標へ近づけるかです。豊田通商は、総合商社の中でも、事業の軸が非常に明確な会社です。だからこそ、FY26は、その軸がどれだけ数字に変わるかを確認する重要な年度になります。

