総合商社の国内事業は、海外から資源や食料を輸入するトレーディングだけではありません。コンビニやスーパーの運営、食品卸、ITシステム、再生可能エネルギー、電力小売、ケーブルテレビ、物流施設、空港関連サービスなど、日本の生活と産業を支える事業会社の経営まで広がっています。7大総合商社は同じ分野に参入していても、持つ顧客基盤、事業会社、商流、データ、資本の使い方が異なります。本記事では、2026年9月13日時点の各社公式情報を基に、日本国内で実際に何をしているのかを会社横断で整理します。
7社の国内事業マップ
最初に、各社が日本で持つ代表的な事業基盤を整理します。表の印は事業の有無を厳密に判定するものではなく、この記事で取り上げる主要領域を示したものです。同じ「食品」でも、コンビニを経営する会社、食品卸を持つ会社、原料調達に強い会社では役割が違います。
| 会社 | この記事で確認する国内領域 | 代表例 |
|---|---|---|
| 三菱商事 | 食品・小売、物流、都市開発、DX | ローソン、三菱食品、MCデータプラス |
| 三井物産 | ICT、サイバーセキュリティ、給食・施設運営 | 三井情報、三井物産セキュアディレクション、エームサービス |
| 伊藤忠商事 | コンビニ、食品卸、IT、繊維・ブランド | ファミリーマート、日本アクセス、伊藤忠テクノソリューションズ |
| 住友商事 | IT、通信・メディア、小売、不動産 | SCSK、JCOM、サミット、住商建物 |
| 丸紅 | 電力小売、再エネ、需給運用 | 丸紅新電力、三峰川電力、丸紅パワートレーディング |
| 豊田通商 | モビリティ、部品、エレクトロニクス、再エネ | 豊通マシナリー、ネクスティ エレクトロニクス、ユーラスエナジー |
| 双日 | 航空・空港、IT、商業施設 | JALUX、双日テックイノベーション、双日商業開発 |
出典:各社公式サイトの事業紹介・主要グループ会社一覧、各事業会社公式サイト。2026年9月13日時点。社名は代表例であり、全事業を網羅しません。資本関係は再編で変わるため、各節で確認できる範囲を明記します。
表から分かるのは、国内事業が海外事業の付属物ではないことです。小売店舗、企業向けIT、電力需給、食品物流などを自ら運営することで、総合商社は顧客との接点と継続的な収益を持ちます。海外で調達した商品を日本へ売るだけでなく、国内の需要情報を調達、商品開発、物流、投資へ戻す循環を作っています。

国内ビジネスの仕組み
伝統的な商社の仕事は、売り手と買い手をつなぎ、契約、物流、決済、信用、価格変動を管理することでした。この機能は今も重要ですが、メーカーと小売が直接取引できる場面が増えると、単純な仲介だけでは付加価値を維持しにくくなります。そこで総合商社は、取引先への出資、事業会社の買収、共同事業の設立を通じ、バリューチェーンの運営へ深く入るようになりました。
国内の食品を例にすると、原料を輸入して食品メーカーへ売るだけならトレーディングです。食品卸を運営すれば、メーカーから小売までの商品供給、在庫、配送、需要予測を担います。さらにコンビニを経営すれば、店舗データを商品開発や発注へ反映できます。商流、物流、情報流を結び付けることで、一回の売買差益だけでなく、事業会社の継続利益や持分利益を得られます。
電力でも同じです。燃料調達だけでなく、発電所への投資、再エネ電源の運営、需給予測、卸売、小売、環境価値の取引まで担えば、複数の収益機会が生まれます。一方で、設備投資、在庫、価格変動、規制、システム障害などのリスクも商社側が負います。国内事業の拡大は、収益の安定化だけでなく、経営責任の拡大でもあります。

トレーディングと事業投資の利益構造を先に理解すると、国内で事業会社を持つ意味がより明確になります。
食品・小売
国内事業で最も生活者に近いのが、食品・小売です。三菱商事はローソンと三菱食品、伊藤忠商事はファミリーマートと連結子会社の日本アクセス、住友商事はスーパーのサミットを事業基盤に持ちます。ここで重要なのは、店舗名を持っていることだけではありません。
コンビニやスーパーは、来店、購買、時間帯、地域ごとの需要を把握できる接点です。食品卸は多数のメーカーと小売をつなぎ、在庫と配送を管理します。商社が原料調達、加工、包材、卸、店舗を組み合わせれば、欠品と廃棄を抑えながら、商品開発の精度を高められます。
ただし、小売は安定需要がある一方、低い利益率、人件費、物流費、電気代、食品ロス、店舗投資の負担があります。消費者接点を持てば自動的に高収益になるわけではありません。店舗の発注、物流網、商品構成を継続的に改善できるかが商社の事業経営力を左右します。
各社の食品調達、卸、小売の違いをさらに詳しく比べると、国内の顧客接点が総合商社の食料戦略で果たす役割を捉えやすくなります。
エネルギー・電力
総合商社は石油、天然ガス、石炭を輸入するだけでなく、国内発電、再生可能エネルギー、電力小売、環境証書、蓄電池などへ事業を広げています。丸紅は電力・インフラサービス部門で、国内の丸紅新電力を中心に電力卸売・小売を展開し、水力や洋上風力を含む発電事業にも関わっています。
豊田通商はユーラスエナジーホールディングスを通じて風力・太陽光発電を展開します。自動車産業と近い豊田通商にとって、再エネは発電単体の事業だけでなく、工場の脱炭素、蓄電池、車載電池の資源循環、エネルギーマネジメントへ接続できる領域です。
住友商事、三菱商事、三井物産、双日も国内の再エネや電力関連事業を持ちますが、電源の構成、出資比率、販売先は同じではありません。発電容量だけを並べて「国内で最も強い」と決めるのは適切ではなく、発電、需給調整、小売、顧客基盤のどこで価値を出しているかを見る必要があります。

IT・デジタル
ITは、各社の国内事業の差が表れやすい分野です。住友商事はSCSKを中核に、システム開発、ITインフラ、クラウド、BPOなどを展開しています。住友商事のデジタル・AIの主要グループ会社一覧では、SCSKのほか、DXコンサルティング、デジタルマーケティング、AIクラウドなど複数の国内会社を掲載しています。
伊藤忠商事では伊藤忠テクノソリューションズが、企業や官公庁向けのITサービスを担います。伊藤忠グループの食品、小売、金融、繊維などの事業基盤とITを結び付けられる点が特徴です。双日は双日テックイノベーションを通じ、ネットワークやITインフラ、システム開発、運用保守、DX支援を提供しています。
三井物産は三井情報と三井物産セキュアディレクションを通じ、ITシステムとサイバーセキュリティを展開します。三菱商事ではMCデータプラスが建設業向けクラウドなどを手掛けます。デジタル事業の価値は、単に社内業務を効率化することではありません。外部顧客から利用料を得る事業になり、同時に商社が持つ実業データを改善へ使う基盤になります。

一方で、IT人材の獲得競争、技術陳腐化、サイバー攻撃、システム障害がリスクです。商社が事業会社へ出資しただけでDXが進むわけではなく、現場の業務とデータを理解し、システムへ落とし込む能力が必要です。
モビリティ・機械
モビリティ分野では、豊田通商の国内基盤が分かりやすい例です。トヨタグループとの関係を背景に、金属、部品、設備、エレクトロニクス、物流、リサイクルをつなぎます。豊通マシナリーは生産設備、ネクスティ エレクトロニクスは車載を含むエレクトロニクスを扱い、車両販売だけでは見えない製造現場を支えています。
三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅、双日も自動車、建設機械、航空、船舶、産業機械に関わります。国内では完成品の売買だけでなく、リース、整備、部品供給、データ、資源循環へ収益源が広がっています。製品を一度販売して終わるのではなく、稼働期間中の保守や運用を事業化する考え方です。
双日のJALUXは、航空・空港関連、生活関連、顧客サービスを手掛けます。双日の日本の主要グループ会社一覧には、JALUXのほか、航空機内食、物流、商業施設、ITなどが掲載されています。航空分野の知見を、空港店舗や物販、サービスへ展開する点に商社らしい広がりがあります。
都市開発・不動産
国内不動産では、オフィスや住宅を建てて売るだけでなく、物流施設、商業施設、賃貸住宅、データセンターなどの開発・運営へ対象が広がっています。総合商社は土地取得、資金調達、テナント誘致、エネルギー、通信、施設運営を組み合わせられます。
住友商事は住宅、オフィス、商業施設、物流施設などを展開し、JCOMやサミットといった生活者接点との組み合わせも可能です。三菱商事は国内外の物流施設、賃貸住宅、商業施設、ホテルなどの収益不動産開発を手掛けます。双日商業開発は商業施設の保有、賃貸、運営管理、再生コンサルティングを行います。
不動産は安定的な賃料収入を得られる一方、金利、建設費、空室、災害、地域人口の変化に影響されます。開発時の売却益だけでなく、稼働率、賃料、維持更新費を含めた運営収益を見なければ、事業の質は判断できません。
ヘルスケア・生活支援
ヘルスケアというと海外の病院投資が注目されますが、国内では給食、施設管理、ユニフォーム、介護用品、医療データ、予防・健康サービスなどが重要です。三井物産のウェルネス事業本部は、日本でコントラクトフードサービス、ユニフォームレンタル、総合施設管理、健康サービスなどを展開すると説明しています。
三菱商事は日本ケアサプライなどを通じ、福祉用具レンタルに関わります。伊藤忠商事や丸紅、住友商事、双日、豊田通商も医薬品・医療機器、介護、健康、食品などに接点を持ちますが、病院経営、流通、データ、生活支援では事業モデルが異なります。
国内の高齢化は需要を増やす一方、医療・介護人材不足、診療報酬・介護報酬、個人情報、サービス品質のリスクがあります。商社の役割は資金を出すだけでなく、複数拠点の調達、IT、人材、施設運営を改善することです。
会社別に見る国内事業
三菱商事
三菱商事の国内事業で生活者に最も近いのは、ローソンと三菱食品です。公式のS.L.C.グループの事業紹介では、食品流通分野について、三菱食品などと連携し、商流・物流・情報流を通じて顧客課題を解決すると説明しています。
ローソンは店舗という販売接点を持ち、三菱食品はメーカーと小売をつなぐ中間流通を担います。三菱商事は調達、物流、データ、金融、事業投資を組み合わせられます。強みは単独会社の規模ではなく、需要データを商品と配送へ戻せることです。
一方、コンビニと食品卸を一体で動かすには、各社の顧客関係や取引の中立性にも配慮が必要です。グループ内取引を増やすだけでなく、外部のメーカー・小売にも選ばれるサービス品質を維持できるかが重要です。
三井物産
三井物産は海外資源やヘルスケア投資の印象が強い一方、国内ではIT、サイバーセキュリティ、給食、施設管理、物流など企業向けサービスに厚みがあります。三井情報はシステムの企画・構築・運用を担い、三井物産セキュアディレクションは診断、監視、コンサルティングを提供します。
ウェルネスでは、企業や施設の食事、ユニフォーム、施設管理など、顧客の業務を継続的に支える事業があります。商品を売るだけでなく、契約期間中にサービスを提供するため、継続収益を得やすい一方、人件費と品質管理が重要です。
三井物産らしさは、国内サービスを単独で見るのではなく、海外の医療、データ、食料、物流の知見と接続できる点にあります。ただし、海外事例を日本へ持ち込む際には、規制、商慣行、個人情報保護への適応が必要です。
伊藤忠商事
伊藤忠商事はファミリーマートを中核とし、食品流通、商品開発、金融・決済、広告、データ活用へ事業を広げています。伊藤忠商事の食品流通戦略では、日本アクセスを中心とする中間流通網を示しています。日本アクセスは食品卸として小売とメーカーをつなぎ、伊藤忠テクノソリューションズはIT基盤を支えます。
この組み合わせでは、店舗で得る需要情報を、商品、物流、販促へ反映できます。伊藤忠商事が掲げる川下重視は、単に小売企業を保有することではなく、生活者接点を起点に商流全体を改善する考え方です。
ただし、コンビニは国内店舗数の成熟、人件費、加盟店との関係、物流費といった課題を抱えます。データ活用も、顧客価値とプライバシー保護を両立しなければなりません。消費者接点の大きさは強みであると同時に、運営品質への責任を大きくします。
住友商事
住友商事はSCSK、JCOM、ジュピターショップチャンネル、サミットなど、国内の生活・情報基盤に関わる事業会社を持ちます。公式のデジタル・AI主要グループ会社一覧でも、SCSKをシステム開発、ITインフラ、コンサルティングなどの担い手として掲載しています。JCOMはケーブルテレビと通信、ショップチャンネルはテレビ通販、サミットは食品スーパーです。
これらは別々の業界に見えますが、顧客接点、コンテンツ、決済、マーケティング、ITで接続できます。SCSKの技術をグループ内の業務改革だけでなく、外部顧客向けサービスへ展開できる点も特徴です。
住友商事が進めるデジタル・AI戦略では、技術そのものより、実際の事業現場へ適用することが焦点になります。通信、小売、不動産の大規模な顧客基盤は実装の場になりますが、顧客情報の管理と投資採算を厳格に見る必要があります。
丸紅
丸紅の国内事業で公式資料から輪郭を追いやすいのは、丸紅新電力と三峰川電力を軸とする電力事業です。丸紅の電力・インフラサービス部門は、国内で電力卸売・小売、再エネ発電、蓄電池や需給調整に取り組むと説明しています。
丸紅は2025年、丸紅新電力と英国SmartestEnergyが共同で丸紅パワートレーディングを設立し、国内の電力トレーディングを強化しました。海外で蓄積した卸売・小売のノウハウを国内市場へ移す例です。
再エネが増えるほど発電量は天候で変動し、電力価格と需給の管理が難しくなります。丸紅の価値は発電設備を持つことだけでなく、電力を安定的に顧客へ届け、価格変動を管理する機能にあります。
豊田通商
豊田通商の国内事業は、自動車産業のサプライチェーンに深く組み込まれています。金属、部品、設備、半導体・電子部品、物流、リサイクルを扱い、製造工程の前後を支えます。公式の事業紹介が示す通り、モビリティ周辺だけでなく、資源循環や再生可能エネルギーまで事業領域があります。
ユーラスエナジーの再エネ事業は、国内企業の脱炭素需要と接続します。工場の電力、車載電池、資源循環まで組み合わせれば、モビリティとエネルギーを一体で提案できます。
一方、自動車産業への近さは、電動化、半導体需給、生産台数の影響を受けることも意味します。既存の商流を守るだけでなく、電池、再エネ、循環型事業へ機能を更新できるかが重要です。
双日
双日はJALUXを通じて航空・空港関連と生活関連サービスを展開し、双日テックイノベーションで企業向けITを手掛けます。双日商業開発は商業施設の運営・再生に関わり、国内の消費者接点を持ちます。
7社のなかで規模が相対的に小さい双日は、すべての分野で最大を目指すより、既存の知見を生かせる領域へ追加投資し、事業のまとまりを作る戦略を取ります。航空の取引経験を空港サービスや物販へ、商業施設の経験を消費事業へ広げる考え方です。
選択と集中は資本効率を高める一方、特定事業の環境変化を受けやすくします。国内事業を見るときは、会社数ではなく、投資先の利益、キャッシュフロー、周辺事業への拡張が進んでいるかを確認する必要があります。
国内事業の読み方
第一に、事業会社名の一覧だけでは強さを比較できません。連結子会社なら売上・利益を連結財務諸表へ取り込みますが、持分法適用会社では持分に応じた利益を計上します。単なる出資先や取引先を、連結子会社と同じように扱うことはできません。
第二に、国内売上や国内収益が大きいことと、国内事業の利益が大きいことは同じではありません。取引量が大きくても利幅が薄い事業があり、持分利益は売上高に表れにくい場合があります。会社間で地域別開示の方法も違うため、単純な国内ランキングは作りにくいのが実情です。
第三に、総合商社本体の仕事と事業会社の仕事を区別する必要があります。本体は資本配分、ガバナンス、事業開発、海外連携を担い、事業会社は店舗、システム、発電所、物流、施設を日々運営します。商社が経営人材を派遣していても、現場の専門人材なしに事業は成立しません。

地域別の利益構造と国内事業の関係を確認する場合は、日本・米州・アジア・豪州を同じ視点で整理した記事が補助線になります。
日本市場で問われる力
総合商社は日本で、商品を輸入して販売するだけでなく、小売、食品卸、IT、電力、通信、都市開発、ヘルスケア、航空・空港サービスを運営しています。日常生活ではローソン、ファミリーマート、サミット、JCOMなどを通じて接点を持ち、企業活動ではIT、物流、設備、電力、施設運営を支えます。
各社の違いは、事業分野の数よりも、どの顧客基盤を核に周辺機能をつなぐかにあります。三菱商事は小売と食品流通、伊藤忠商事はコンビニ・食品卸とIT、住友商事はIT・通信・小売、丸紅は電力小売と需給運用、豊田通商はモビリティと再エネ、双日は航空・空港とITに接点があります。三井物産は企業向けITとウェルネスを展開します。これらは本記事で取り上げた代表例であり、各社の国内事業全体を順位付けする分類ではありません。
国内市場は人口減少に直面しますが、物流人手不足、脱炭素、デジタル化、高齢化、インフラ更新といった課題は増えています。総合商社の役割は、海外から商品を持ち込むことから、複数の事業会社と技術を組み合わせて国内の課題を解くことへ広がっています。
今後の評価で重要なのは、新しい会社を増やしたかではなく、既存の顧客基盤とデータを使って収益性とサービス品質を高められたかです。事業会社の利益、投資後の資本効率、現場での改善を追うことで、各社の国内事業が単なる資産保有か、競争力のある事業経営かを見分けられます。

