総合商社を理解する上で、非常に重要な考え方が「バリューチェーン」です。バリューチェーンとは、原料の調達から、製造、加工、物流、販売、サービス、消費者への提供まで、価値が生まれていく一連の流れを指します。
総合商社は、単に商品を仕入れて販売するだけの会社ではありません。資源、エネルギー、食料、機械、化学品、インフラ、生活産業など、さまざまな分野でバリューチェーンの複数の段階に関わっています。ある領域では原料調達に近い「川上」に入り、別の領域では物流や加工を担う「川中」に入り、更に別の領域では小売やサービスなど「川下」に関与します。
例えば、食料ビジネスで考えると、川上には農地、穀物調達、畜産、水産などがあります。川中には食品加工、物流、卸売があります。川下にはスーパー、コンビニ、外食、消費者向けブランドがあります。総合商社は、この一部だけでなく、複数の段階に関与することで、より大きな収益機会を作っています。
資源ビジネスでも同じです。川上には鉱山、油田、ガス田などの資源開発があります。川中には輸送、精製、加工、貯蔵、トレーディングがあります。川下には発電会社、製鉄会社、化学メーカー、自動車メーカーなどの需要家があります。総合商社は、資源をただ売買するだけではなく、資源権益、輸送、販売、需要家との長期契約まで関与することがあります。
このように、バリューチェーンで見ると、総合商社の仕事はかなり立体的に見えてきます。「何を扱っているか」だけでなく、「バリューチェーンのどこに関わっているか」を見ることで、総合商社ごとの強みや違いが分かりやすくなります。
この記事では、バリューチェーンとは何か、川上・川中・川下の違い、総合商社がバリューチェーン全体に関与する理由、伊藤忠商事のファミリーマート、三菱商事のLNG事業、豊田通商のモビリティ事業、双日の化学品トレードなどの具体例を交えながら、総合商社の役割を整理します。
バリューチェーンとは
バリューチェーンとは、商品やサービスが顧客に届くまでに、どのような段階で価値が加わっていくかを示す考え方です。日本語では「価値連鎖」と訳されることもあります。
例えば、コーヒーを例にすると、最初にコーヒー豆を栽培する農園があります。その後、収穫、精製、輸出、輸入、焙煎、加工、物流、小売、カフェでの提供という流れがあります。消費者が一杯のコーヒーを飲むまでには、多くの企業や工程が関わっています。
この一連の流れの中で、どこに利益が生まれるのか、どこにリスクがあるのか、どこに競争優位があるのかを考えるのがバリューチェーン分析です。単に「コーヒーを売っている会社」と見るのではなく、豆の調達に強いのか、焙煎技術に強いのか、店舗ブランドに強いのか、物流網に強いのかを見ることで、会社の強みが分かります。
総合商社の場合、このバリューチェーンの見方が非常に重要です。なぜなら、総合商社は一つの商品や一つの工程だけに関わる会社ではなく、原料調達、加工、物流、金融、販売、事業投資、サービスまで幅広く関わるからです。
例えば、総合商社が食品原料を輸入している場合、単なる輸入販売だけでなく、原料調達先の開拓、品質管理、物流、在庫、食品メーカーへの販売、場合によっては食品加工会社や小売会社への投資まで行うことがあります。この場合、総合商社はバリューチェーンの中で複数の役割を担っていることになります。
バリューチェーンを見ると、総合商社がどこで価値を出しているのかが分かります。商品を動かしているだけなのか、物流や在庫で価値を出しているのか、川上の権益を持っているのか、川下の顧客接点を持っているのか。この違いが、総合商社の収益力や競争力に大きく影響します。
川上ビジネスとは
川上ビジネスとは、バリューチェーンの上流部分、つまり原料や資源の調達に近い領域を指します。資源、農産物、エネルギー、素材など、事業の出発点に近い部分です。
資源ビジネスでいえば、鉱山、油田、ガス田、LNGプロジェクトなどが川上にあたります。鉄鉱石、石炭、銅、原油、天然ガスなどを採掘・生産する領域です。総合商社が鉱山会社やLNGプロジェクトに出資する場合、川上ビジネスに関与していることになります。
食料ビジネスでいえば、農地、穀物生産、畜産、水産、原料調達などが川上にあたります。例えば、大豆、小麦、とうもろこし、肉、魚、乳製品などの調達に関わる部分です。総合商社は、世界各地の産地やサプライヤーと関係を持ち、安定的な原料調達を支えています。
川上ビジネスの特徴は、供給源を押さえることで強い競争力を持てる点です。資源や原料は、どこでも簡単に手に入るものではありません。品質、数量、価格、供給安定性、地政学リスク、天候、環境規制など、多くの要素に左右されます。そのため、川上に強い会社は、安定供給や価格交渉の面で優位に立ちやすくなります。
一方で、川上ビジネスにはリスクもあります。資源価格や農産物価格は市況に大きく左右されます。鉱山やエネルギー開発では、投資金額が大きく、回収期間も長くなります。農産物では天候不順、病害、物流混乱、輸出規制などが影響します。
総合商社が川上ビジネスに関与する理由は、供給源を押さえることで、商流全体に影響力を持てるからです。単に商品を買って売るだけではなく、資源や原料の供給源に近い場所に入り込むことで、長期的な収益機会を得ることができます。
川中ビジネスとは
川中ビジネスとは、バリューチェーンの中間部分にあたる領域です。原料や商品を加工し、流通させ、必要な形に整えて、次の顧客へつなぐ役割を担います。
具体的には、加工、製造、物流、卸売、在庫管理、部品供給、金融、トレーディングなどが川中にあたります。総合商社が昔から強みを持ってきたトレーディングも、多くの場合この川中機能に含まれます。
例えば、鉄鋼ビジネスで考えると、鉄鉱石を調達するのが川上、鉄鋼メーカーが鋼材を生産するのが川中、更にその鋼材が自動車、建設、インフラ、機械メーカーに使われるのが川下です。総合商社は、鋼材の販売、加工、在庫、物流、需要家との調整などを通じて、川中に関与します。
化学品ビジネスでも同様です。原料を調達し、化学メーカーや加工会社へ販売し、必要に応じて在庫や物流を整えます。化学品は、品質規格、危険品対応、輸出入規制、納期管理などが重要になるため、商社の実務機能が価値を持ちやすい分野です。
川中ビジネスの特徴は、複数の取引先をつなぎ、サプライチェーンを安定させることです。顧客は、必要な商品を、必要な時に、必要な数量だけ受け取りたいと考えます。しかし、メーカーや原料供給者は、大量生産や長期契約を前提にしていることもあります。この間を調整するのが、川中機能の役割です。
総合商社は、川中で在庫、物流、金融、与信、契約、品質管理を担うことで、取引をスムーズにします。商品を単に横流しするのではなく、サプライチェーン上の詰まりを解消し、顧客の調達や販売を支えるのです。
ただし、川中ビジネスは競争が激しく、単なる仲介だけでは利益率が下がりやすい領域でもあります。そのため、総合商社は川中機能を維持しながら、川上の権益や川下の顧客接点へ広げることで、より強い収益構造を作ろうとしています。
川下ビジネスとは
川下ビジネスとは、最終顧客や消費者に近い領域を指します。商品やサービスが実際に使われる場面に近く、顧客接点を持つビジネスです。
具体的には、小売、外食、コンビニ、ディーラー、アフターサービス、金融、広告、ヘルスケア、ITサービス、消費者向けブランドなどが川下にあたります。総合商社が近年強化している領域の一つです。
例えば、伊藤忠商事のファミリーマートは、川下ビジネスの代表例です。コンビニは消費者に直接接点を持つ事業です。店舗網、購買データ、商品開発、物流、広告、金融サービスなど、消費者に近い場所で多くの収益機会を作ることができます。
建設機械や自動車でも、川下ビジネスは重要です。メーカーが機械や車両を作るだけでは、顧客との関係は限定的です。一方、販売代理店やディーラーを持てば、新車販売、部品、修理、レンタル、中古販売、金融、保険など、顧客との継続的な関係を持つことができます。
川下ビジネスの特徴は、顧客ニーズを直接把握できることです。何が売れているのか、顧客が何に困っているのか、どのサービスが求められているのかを近い場所で見ることができます。この情報は、商品開発、仕入れ、物流、広告、投資判断にも活かされます。
一方で、川下ビジネスはオペレーションが重要です。店舗運営、人材管理、顧客対応、ブランド、サービス品質、システム、マーケティングなど、細かい運営力が求められます。川上の資源権益のように、市況が良ければ大きく利益が出るというよりも、日々の運営改善で利益を積み上げる性格があります。
総合商社が川下ビジネスを重視する理由は、顧客接点を持つことで、バリューチェーン全体をより深く理解できるからです。顧客に近い情報を持てば、川中の物流や川上の調達にも活かせます。川下を押さえることで、単なる供給者ではなく、需要を作る側に近づくことができます。
総合商社がバリューチェーン全体に関与する理由
総合商社がバリューチェーン全体に関与する理由は、複数あります。第一に、収益機会を広げるためです。第二に、リスクを分散するためです。第三に、商流全体を押さえることで競争優位を作るためです。
まず、収益機会の拡大です。川中のトレーディングだけを行っている場合、得られる利益は売買差益や手数料に限られます。しかし、川上の原料調達や資源権益に関与すれば、生産段階の利益を取り込めます。川下の販売やサービスに関与すれば、顧客接点から生まれる利益を取り込めます。
次に、リスク分散です。川上だけに依存すると、市況変動や供給リスクの影響を受けやすくなります。川下だけに依存すると、消費者需要や競争環境の影響を受けやすくなります。川上、川中、川下に分散して関与することで、特定のリスクに偏りすぎない事業ポートフォリオを作ることができます。
更に、バリューチェーン全体を押さえることで、競争優位を作れます。例えば、原料調達、加工、物流、小売まで関与していれば、原料価格の変動や需要の変化を早く把握できます。顧客のニーズを川上の調達に反映することもできます。単独の工程だけを担う会社よりも、全体最適を考えやすくなるのです。
総合商社は、トレーディングで得た商流や情報をもとに、投資機会を見つけることがあります。逆に、事業投資先を持つことで、新しいトレーディングやサービスの機会が生まれることもあります。バリューチェーン全体に関わることで、トレーディングと事業投資がつながります。
ただし、バリューチェーン全体に関与することは、簡単ではありません。川上には資源開発や原料調達のリスクがあり、川中には在庫・物流・与信のリスクがあり、川下にはオペレーションや顧客対応の難しさがあります。すべてを自社で抱え込めばよいわけではなく、自社がどこで価値を出せるかを見極めることが重要です。
つまり、総合商社はバリューチェーン全体を見ながら、どこに入れば収益機会があるのか、どこにリスクがあるのか、どこで自社の機能を活かせるのかを判断しています。これが、総合商社の事業戦略を理解する上で重要な視点です。
具体例で見る総合商社のバリューチェーン
総合商社のバリューチェーンは、抽象的に説明するだけでは少し分かりにくい部分があります。そこで、ここでは具体例として、伊藤忠商事、三菱商事、豊田通商、双日を取り上げます。
同じ総合商社でも、バリューチェーンの入り方は大きく異なります。川下の顧客接点を起点に広げる会社もあれば、川上の資源開発から川下の需要家まで一気通貫で関与する会社もあります。各社の違いを見ることで、総合商社のビジネスモデルがより立体的に理解できます。
伊藤忠商事:ファミリーマートを起点にした川下起点のバリューチェーン
伊藤忠商事のファミリーマートは、総合商社が川下の顧客接点を起点に、川中・川上へバリューチェーンを広げる例として分かりやすい事例です。ファミリーマートは、消費者に直接接点を持つコンビニ事業であり、店舗網、購買データ、商品開発、物流、広告、金融サービスなど、さまざまな機能を持っています。
伊藤忠商事は、ファミリーマートを単なる小売事業として見るのではなく、グループ全体の収益基盤を広げる起点として位置付けています。伊藤忠商事は、統合レポート2024で、ファミリーマートを起点として川下から川上に至る強固なバリューチェーンを構築していると説明しています。また、ファミリーマートの持つ1日あたり1,500万人の消費者接点を活かし、商品の調達・販売だけでなく、商品力強化、広告・メディア事業、ファミペイなどの金融事業にも展開しているとしています(伊藤忠商事「強みを活かした商いの創出」)。
この事例で重要なのは、出発点が川下にあることです。一般的に、総合商社は川上の原料調達や川中のトレーディングから始まるイメージがあります。しかし、伊藤忠商事の場合、ファミリーマートという川下の消費者接点を持つことで、「何が売れているのか」「どのような商品が求められているのか」「どの顧客層にどのサービスが刺さるのか」を直接把握できます。
その情報は、川中の物流、商品開発、広告、データ活用に反映できます。更に、川上の原料調達やメーカーとの商品企画にもつながります。つまり、川下の顧客接点を起点に、川中・川上へ逆流するようにバリューチェーン全体を強化できるのです。
伊藤忠商事の強みは、非資源・生活消費分野にあります。ファミリーマートのような川下ビジネスを持つことで、資源市況に左右されにくい収益基盤を作りやすくなります。これは、川上の資源権益で大きく稼ぐタイプの総合商社とは異なる、伊藤忠商事らしいバリューチェーン戦略といえます。
三菱商事:LNG事業における川上から川下までのバリューチェーン
三菱商事のLNG事業は、総合商社が川上から川下までバリューチェーン全体に関与する例として非常に分かりやすい事例です。LNGとは、天然ガスを冷却して液化したもので、発電や都市ガスなどに使われる重要なエネルギーです。
LNGビジネスでは、まず川上に天然ガスの開発・生産があります。次に、川中では天然ガスを液化し、LNG船で輸送し、需要地へ販売します。更に川下では、電力会社やガス会社などの需要家に供給され、発電や都市ガスとして利用されます。
三菱商事は、LNG事業において、原料ガスの上流開発から、液化、輸送、販売に至るまで、LNGバリューチェーン全体に関与してきたと説明しています(三菱商事「カナダ天然ガス事業」)。また、カナダLNG事業では、上流資源開発からLNGの生産・輸出販売に至る天然ガスバリューチェーンを構築しており、LNGカナダプロジェクトでは年間1,400万トンの生産能力を持つ液化設備を建設し、日本を含む東アジアの需要国向けにLNGを輸出販売する事業とされています(三菱商事「モントニー・シェールガス開発プロジェクト/LNGカナダプロジェクト」)。
この事例で重要なのは、三菱商事が単にLNGを売買しているだけではない点です。川上ではガス田開発に関わり、川中では液化設備や輸送・販売に関与し、川下では日本や東アジアの需要家への供給につなげています。つまり、資源を「買って売る」のではなく、資源の開発から需要家への供給まで、長いバリューチェーン全体に入り込んでいるのです。
このようなビジネスでは、投資規模が大きく、回収期間も長くなります。資源価格、建設コスト、為替、金利、地政学リスク、環境規制など、さまざまなリスクがあります。一方で、上流から販売まで関与できれば、長期的な供給力と収益機会を確保しやすくなります。
三菱商事のLNG事業は、川上に強い総合商社の典型例です。資源権益やエネルギープロジェクトに入り込み、長期契約や需要家との関係を組み合わせることで、バリューチェーン全体で収益を作っています。伊藤忠商事のファミリーマートが「川下起点」の例だとすれば、三菱商事のLNG事業は「川上から川下まで一気通貫」の例といえます。
豊田通商:モビリティ領域におけるバリューチェーン
豊田通商は、モビリティのバリューチェーンに強い総合商社です。自動車産業は、原材料、部品、完成車、物流、販売、金融、アフターサービス、中古車、リサイクルまで、非常に長いバリューチェーンを持っています。
豊田通商は、トヨタグループとの関係を背景に、モビリティ領域のさまざまな段階に関与しています。自動車の部品や素材に関わる領域だけでなく、完成車販売、物流、販売金融、アフターサービス、リサイクルなど、車が作られ、販売され、使われ、再利用されるまでの流れに広く関わっています(豊田通商「統合レポート2025」)。
この事例で重要なのは、豊田通商が単なる自動車販売会社ではない点です。モビリティのバリューチェーン全体に関与することで、完成車販売だけでなく、部品、物流、保険、金融、整備、中古車、リサイクルなど、複数の収益機会を持つことができます。
自動車ビジネスでは、販売後のサービスも重要です。車両を販売して終わりではなく、部品供給、メンテナンス、修理、リース、保険、中古車販売など、顧客との関係は長く続きます。川下の顧客接点を持つことで、次の販売機会やサービス収益にもつながります。
豊田通商のモビリティ事業は、メーカー系の総合商社としての特徴が出やすい領域です。川上の素材や部品から、川中の物流、川下の販売・サービスまで関与することで、モビリティ産業全体を支えるバリューチェーンを作っています。
双日:化学品トレードを起点にしたバリューチェーン拡張
双日は、トレーディングを起点に事業を広げる総合商社として見ると分かりやすい会社です。特に化学品分野では、顧客基盤やトレード機能を活かしながら、サプライチェーン再構築や製造領域への展開を進めています。
双日の化学本部は、メタノール、合成樹脂、工業塩、レアアース、鉱産物など幅広い商材を扱い、約5,000社の顧客基盤を持つと説明しています(双日「化学本部」)。また、2026年3月期決算資料では、化学分野について、5,000社超の顧客基盤とトレード機能を起点に、事業投資とトレードを相互に強化する方針が示されています(双日「2026年3月期決算資料」)。
この事例で重要なのは、双日が「トレードで終わらせていない」点です。化学品トレードを通じて、顧客が何を求めているのか、どの素材が不足しているのか、どのサプライチェーンに課題があるのかを把握できます。その情報をもとに、製造、加工、供給網の再構築、投資へと展開していくことができます。
化学品ビジネスでは、品質規格、供給安定性、危険品対応、法規制、輸出入管理、在庫、物流など、川中の機能が非常に重要です。双日は、この川中機能を強みにしながら、川上の調達先や川下の顧客基盤との関係を深めています。
双日の例は、総合商社にとってトレーディングが今でも重要な機能であることを示しています。単なる売買ではなく、トレードを通じて市場を知り、顧客を知り、その知見をもとにバリューチェーンを広げていく。これが双日らしいバリューチェーン戦略の一つです。
資源ビジネスの例
資源ビジネスは、総合商社のバリューチェーン関与が分かりやすい領域です。資源ビジネスでは、川上、川中、川下のそれぞれに異なる役割があります。
川上には、鉱山、油田、ガス田、LNGプロジェクトなどがあります。総合商社は、これらの資源開発プロジェクトに出資し、資源権益を持つことがあります。資源価格が上昇すれば大きな利益を得られる一方、開発コストや市況変動、環境規制、地政学リスクも抱えます。
川中には、輸送、貯蔵、トレーディング、販売、価格ヘッジなどがあります。例えば、LNGであれば、ガスを液化し、船で輸送し、需要家へ販売します。鉄鉱石や石炭であれば、鉱山から港へ運び、船積みし、製鉄会社や電力会社へ供給します。
川下には、製鉄会社、電力会社、化学メーカー、自動車メーカーなどの需要家があります。総合商社は、需要家との長期契約や安定供給を通じて、資源ビジネスの収益を作ります。
三菱商事や三井物産は、資源・エネルギー分野に強い総合商社として知られています。資源ビジネスでは、川上の権益を持つことにより、市況上昇時に大きな利益を得られる可能性があります。一方で、資源価格の下落時には利益が大きく減る可能性もあります。
資源ビジネスで重要なのは、単に資源を持つことではありません。川上の権益、川中の輸送・販売、川下の需要家との関係を組み合わせることで、バリューチェーン全体で収益機会を作ることです。資源ビジネスは、市況の影響を受けやすい一方、総合商社のスケールやネットワークが活きやすい分野です。
食料・小売ビジネスの例
食料・小売ビジネスも、バリューチェーンで見ると総合商社の役割が分かりやすい領域です。食料ビジネスは、川上から川下まで非常に長いバリューチェーンを持っています。
川上には、農地、穀物、畜産、水産、食品原料などがあります。総合商社は、世界中の産地やサプライヤーから原料を調達します。天候、価格、品質、輸出規制、物流などの影響を受けるため、安定調達力が重要です。
川中には、食品加工、物流、卸売、在庫管理があります。原料をそのまま販売するだけでなく、加工し、保管し、必要なタイミングで顧客に届ける機能が求められます。食品の場合、品質管理、温度管理、賞味期限、衛生基準も重要です。
川下には、小売、コンビニ、外食、消費者向けブランドがあります。ここでは、消費者のニーズを直接把握できます。どの商品が売れているのか、どの価格帯が支持されているのか、どの地域で需要があるのかといった情報は、川上の調達や川中の物流にも活かされます。
伊藤忠商事のファミリーマートは、川下ビジネスの代表例です。ファミリーマートを通じて、伊藤忠商事は消費者に近い接点を持つことができます。食品、物流、広告、金融、デジタル、商品開発など、さまざまな機能を組み合わせることで、単なる商品販売を超えた事業展開が可能になります。
食料・小売ビジネスの特徴は、資源ビジネスのように市況で一気に利益が増減するというより、日々のオペレーションや顧客接点の磨き込みによって利益を積み上げる点です。商品力、店舗運営、物流効率、データ活用、ブランド戦略が重要になります。
このように、食料・小売ビジネスでは、川上の調達力、川中の物流・加工機能、川下の顧客接点がつながることで、総合商社らしい事業展開が生まれます。バリューチェーン全体で見ると、なぜ総合商社がコンビニや食品流通に関与するのかが理解しやすくなります。
バリューチェーンで総合商社ごとの違いを見る方法
総合商社を比較する時は、どの会社がバリューチェーンのどこに強いのかを見ると分かりやすくなります。同じ総合商社でも、川上に強い会社、川下に強い会社、川中機能を活かす会社では、事業の性格が異なります。
三菱商事や三井物産は、資源・エネルギーの川上に強みを持つ会社として見られることが多いです。鉱山、LNG、天然ガス、金属資源などの大型事業に関わり、市況が良い時には大きな利益を得やすい構造があります。一方で、資源市況の変動を受けやすい面もあります。三菱商事のLNG事業のように、上流開発から液化、輸送、販売まで関わる事業は、川上から川下まで一気通貫で関与する総合商社らしい事例です(三菱商事「カナダ天然ガス事業」)。
伊藤忠商事は、非資源・川下ビジネスに強みを持つ会社として見られます。ファミリーマートをはじめ、生活消費、情報・金融、食品、住生活など、消費者や顧客に近い領域に強みがあります。川下の顧客接点を持つことで、安定的な利益や高い資本効率を目指しやすい構造です(伊藤忠商事「強みを活かした商いの創出」)。
住友商事や丸紅は、複数のバリューチェーンで事業を磨きながら、資本効率や事業ポートフォリオの入替を重視しています。住友商事は、デジタル、リース、不動産、エネルギーソリューション、建機など、複数の事業領域でNo.1事業群を目指しています。丸紅は、電力、食料・アグリ、金属などを持ちながら、資本効率とキャッシュフロー経営を強く意識しています。
豊田通商は、モビリティのバリューチェーンに強い会社です。自動車の原材料、部品、物流、販売、金融、アフターサービス、リサイクルなど、自動車産業に関わる幅広い領域に関与しています。トヨタグループとの関係を背景に、モビリティ全体を支える事業構造を持っています(豊田通商「統合レポート2025」)。
双日は、トレーディングを起点に事業の種を見つけ、それを投資や事業運営へ広げる動きが特徴的です。化学品のように、顧客基盤やトレード機能を活かし、製造やサプライチェーン再構築へ展開する事例が分かりやすいです(双日「化学本部」)。
このように、総合商社を比較する時は、「どの業界にいるか」だけではなく、「バリューチェーンのどこで利益を取っているか」を見ることが重要です。川上の権益で稼ぐ会社なのか、川中の機能で稼ぐ会社なのか、川下の顧客接点で稼ぐ会社なのか。ここを見ると、総合商社ごとの違いがかなり分かりやすくなります。
まとめ:バリューチェーンで見ると総合商社の役割がわかる
総合商社のバリューチェーンとは、原料調達から加工、物流、販売、サービス、消費者への提供まで、価値が生まれる一連の流れの中で、総合商社がどこに関与しているかを見る考え方です。
川上ビジネスでは、資源、原料、農産物、エネルギーなどの供給源に近い領域に関わります。川中ビジネスでは、加工、物流、在庫、卸売、トレーディング、金融、与信などを通じて、取引を安定させます。川下ビジネスでは、小売、サービス、ディーラー、アフターサービス、デジタル、消費者接点などに関与します。
総合商社は、バリューチェーンの一部だけでなく、複数の段階に関わることで収益機会を広げています。川上を押さえれば供給源に近づき、川中を担えば取引を円滑にし、川下に入れば顧客ニーズを直接把握できます。
具体例で見ると、伊藤忠商事のファミリーマートは、川下の消費者接点を起点に、商品開発、物流、広告、金融、調達へ広げる事例です(伊藤忠商事「強みを活かした商いの創出」)。一方、三菱商事のLNG事業は、川上の天然ガス開発から、液化、輸送、販売、需要家への供給まで、一気通貫で関与する事例です(三菱商事「カナダ天然ガス事業」)。
また、豊田通商はモビリティ領域で、素材、部品、物流、販売、アフターサービス、リサイクルまで幅広く関与しています(豊田通商「統合レポート2025」)。双日は、化学品トレードを起点に顧客基盤を広げ、サプライチェーン再構築や製造領域への展開を進めています(双日「化学本部」)。
総合商社ごとの違いも、バリューチェーンで見ると分かりやすくなります。三菱商事や三井物産は資源・エネルギーの川上に強みを持ち、伊藤忠商事は非資源・川下に強みを持ちます。豊田通商はモビリティのバリューチェーンに強く、双日はトレードを起点に事業を広げる特徴があります。
つまり、総合商社は、単に商品を売買する会社ではありません。バリューチェーン全体を見ながら、どこに収益機会があるのか、どこにリスクがあるのか、どこで自社の機能を活かせるのかを判断する会社です。バリューチェーンの視点を持つことで、総合商社のビジネスモデルや企業ごとの違いをより深く理解できるようになります。