双日を理解するとき、多くの人は「七大総合商社の一角」「日商岩井とニチメンが合併してできた会社」「大手商社の中では比較的小回りが利く会社」といったイメージを持つと思います。
三菱商事や三井物産が財閥系商社として語られ、伊藤忠商事や丸紅が近江商人・繊維商社の流れで語られるのに対し、双日は少し違う成り立ちを持っています。
双日は、2003年にニチメン株式会社と日商岩井株式会社が持株会社を設立し、翌2004年に合併して誕生した総合商社です。両社の源流をたどると、日本綿花、岩井商店、鈴木商店に行き着きます。双日公式サイトでも、両社は開国、明治・大正期の産業革命、戦後復興、高度成長といった近代日本の発展過程で大きな役割を果たしてきた商社だと説明されています。
つまり、双日は「新しい会社」でありながら、非常に長い歴史を持つ会社でもあります。
双日を理解するうえで重要なのは、単に事業領域を並べることではありません。双日の特徴は、複数の源流を持つ商社が合併し、財務再建を経て、自社が勝てる領域を選びながら事業を磨いてきた点にあります。
大手5社のように、巨大な資源権益や超大型インフラ案件を積み上げるだけが、総合商社の戦い方ではありません。双日は、航空、自動車、化学、レアアース、アグリ、リテール、地域密着型の海外事業など、個別性の高い領域で強みを発揮してきました。
なぜ双日は、こうした独自色のある事業を持っているのか。
なぜ「新たな価値」「挑戦」「スピード」「リスクを見極める」といった言葉が企業文化に出てくるのか。
なぜ現在の双日は、点在する事業をつなぎ、収益の塊を作るような戦略を重視しているのか。
こうした特徴は、双日の歴史をたどると見えやすくなります。
この記事では、双日の源流である日本綿花、岩井商店、鈴木商店の歴史から、日商岩井・ニチメンの合併、双日誕生後の財務再建、そして現在の企業理念・事業戦略とのつながりを解説します。
目次
- 双日はどのような総合商社か
- 合併・再建型商社としての双日
- 日本綿花|日本の紡績業を支えた源流
- 岩井商店|輸入の国産化と製造事業への展開
- 鈴木商店|日本一の総合商社と再出発のDNA
- 戦後復興と高度成長|航空・資源・中国・LNGへの展開
- 1968年|日商岩井の誕生
- 1980年代〜1990年代|ベトナム・食料・化学への広がり
- 2003年〜2004年|ニチメン・日商岩井から双日へ
- 2004年以降|財務再建と事業ポートフォリオの選別
- 2016年以降|双日らしさと非資源ポートフォリオ
- 2020年代|機動力とカタマリ戦略で双日らしさを磨く
- 双日の企業理念とは何か
- 行動指針と双日の社風
- 理念を象徴する事業・事例
- 双日の社風・人材像へのつながり
- まとめ:双日は「合併・再建・機動力」から独自の事業を作る商社
双日はどのような総合商社か
双日は、日商岩井とニチメンの合併によって誕生した、合併・再建型の総合商社です。
現在の双日は、自動車、航空・交通インフラ、エネルギー・総合インフラ、金属・資源・リサイクル、化学、生活産業・アグリビジネス、リテール・コンシューマーサービスなどを展開しています。公式サイトでも、これらの本部が事業紹介として整理されています。
ただし、双日を単に「複数の事業を持つ総合商社」と見るだけでは、同社の特徴は十分に見えてきません。
双日の特徴は、三菱商事や三井物産のような巨大な資源・エネルギー権益を中心に据える会社とも、伊藤忠商事のように生活消費分野で圧倒的な存在感を持つ会社とも少し異なります。
双日は、七大総合商社の中では企業規模が比較的小さい会社です。ただし、それは単なる弱みではありません。むしろ、大手総合商社が優先しにくい領域や、個別性の高い地域・商権・事業領域に入り込み、機動力を活かして事業を作る点に、双日の特徴があります。
大手商社が数千億円規模の大型資源案件や巨大インフラ案件に資本を投じる一方で、双日は航空、自動車、化学、レアアース、アグリ、リテール、地域密着型の海外事業など、より粒度の細かい領域で強みを発揮してきました。
これは、規模が小さいからこそ取れる戦い方でもあります。
大手商社にとっては事業規模が小さすぎる案件でも、双日にとっては十分な成長機会になり得ます。また、大型投資よりも、現地パートナーとの関係、専門商権、販売網、物流、金融、事業運営を組み合わせることで、独自の収益機会を作ることができます。
双日は、合併後に財務再建を経験した会社でもあります。そのため、単に事業領域を広げるのではなく、どの事業を残し、どの領域で勝ち筋を作るのかを考え続けてきました。
双日を一言で表すなら、合併と再建を経て、自社の規模や強みに合った領域を選び、機動力を活かして新たな事業価値を作る総合商社です。
合併・再建型商社としての双日
双日は、七大総合商社の中でも「合併・再建型商社」として見ると分かりやすい会社です。
三菱商事や三井物産は旧財閥系の流れを持ち、伊藤忠商事や丸紅は近江商人・繊維商社の流れを持ちます。豊田通商はトヨタグループのメーカー系商社です。
一方、双日は、ニチメンと日商岩井という2つの総合商社が合併して誕生しました。双日の公式サイトでも、双日グループは2003年4月にニチメンと日商岩井が持株会社を設立し、2004年4月に合併して誕生したと説明されています。
この成り立ちは、現在の双日の性格に強く影響しています。
双日は、合併によって非常に多様な事業基盤を引き継ぎました。一方で、合併直後は財務再建が大きな課題となりました。The社史では補足的に、発足時点の連結有利子負債が1兆5,000億円超に達し、財務再建を最優先課題に据えた出発だったと整理されています。
この経験が、双日の「選別する力」「磨き込む力」「独自領域を探す力」につながっています。
合併で生まれた会社は、旧会社の事業や文化をただ合わせるだけでは成長できません。どの事業を残し、どの事業を見直し、どの領域で独自性を出すのかを決める必要があります。
その意味で、双日は「再建を経験したからこそ、自社らしさを考え続けてきた商社」といえます。
日本綿花|日本の紡績業を支えた源流
双日の源流の一つが、日本綿花です。
日本綿花は、1892年に設立されました。双日歴史館では、紡績会社の首脳や大阪商人らが日本綿花を設立したことが示されています。
当時、日本の紡績業は急成長していました。しかし、原料となる綿花は海外から調達する必要がありました。日本綿花は、インド、中国、アメリカ、エジプトなど世界中から綿花を調達し、綿糸・綿布を輸出することで、日本が世界最大の紡績国へ成長する一翼を担いました。
この歴史から見えるのは、日本綿花が単なる綿花商ではなかったという点です。
日本の基幹産業であった紡績業を支えるために、世界から原料を調達し、製品の輸出にも関わる。つまり、産業に必要な供給網そのものを作る会社でした。
これは、現在の双日にもつながる考え方です。
必要な素材や商品を世界から調達し、産業の成長を支える。取引だけでなく、供給網そのものを作る。社会や産業の課題を、商社機能を通じて解決する。
双日の現在のレアアース、工業塩、肥料、金属資源、リサイクル事業にも、この「産業に必要なものを安定的に供給する」という発想が受け継がれています。
岩井商店|輸入の国産化と製造事業への展開
双日のもう一つの重要な源流が、岩井商店です。
双日歴史館では、1862年に大阪で舶来商として岩井文助商店が創業し、1896年に岩井勝次郎が独立して岩井商店を開業したと説明されています。
岩井商店の特徴は、単なる輸入商ではなかったことです。
双日歴史館では、岩井勝次郎が輸入の国産化構想を進め、「最勝会」と呼ばれる製造事業群を設立したことが紹介されています。そこには、現在のトーア紡コーポレーション、日本製鉄、ダイセル、トクヤマ、関西ペイント、日本橋梁につながる事業が含まれます。
ここで重要なのは、岩井商店が「輸入品を売る会社」にとどまらなかったことです。
海外から商品を持ち込むだけでなく、それを日本国内で製造できるようにする。輸入をきっかけに、国内産業を育てる。これが岩井商店の特徴でした。
この発想は、現在の双日にも通じます。
双日は、単に商品をトレードするだけでなく、事業そのものを作り、現地に根付かせ、産業の仕組みを作る会社です。航空、インフラ、化学、アグリ、リテールなどの事業も、単なる売買ではなく、事業基盤の構築や運営を伴うものが多くあります。
岩井商店の「輸入の国産化」は、双日の「新たな価値を創造する」精神の源流の一つと見ることができます。
鈴木商店|日本一の総合商社と再出発のDNA
双日の源流で最も劇的な歴史を持つのが、鈴木商店です。
双日歴史館では、1877年に鈴木岩治郎が神戸の洋糖商として鈴木商店を開業したことが紹介されています。その後、鈴木岩治郎が急死し、夫人の鈴木よねが番頭の柳田富士松と金子直吉に経営を任せ、事業を継続しました。
鈴木商店は、非常に挑戦的な会社でした。
1917年には取扱高で日本一の総合商社になり、神戸製鋼所、帝人をはじめ約80もの事業会社を設立したと双日歴史館で紹介されています。
商社でありながら、製造業へ深く入り込み、鉄鋼、化学、繊維、食品、船舶など、幅広い事業を生み出したのです。これは、現在の総合商社に近い事業創造型の動きです。
しかし、鈴木商店は1927年に破綻します。その翌年、元鈴木商店の高畑誠一、永井幸太郎らが「日商」を設立しました。
この流れは、双日の企業文化を考えるうえで非常に重要です。
鈴木商店は、日本一の総合商社に成長した一方、破綻も経験しました。そして、その流れをくむ人材が再び日商を立ち上げました。
双日の歴史には、挑戦、拡大、失敗、再出発という要素が強くあります。これは、合併後に財務再建を経験した双日にも重なります。
双日の「挑戦するが、リスクを見極める」という行動指針は、こうした歴史を踏まえると理解しやすくなります。
戦後復興と高度成長|航空・資源・中国・LNGへの展開
戦後、双日の源流企業は日本の復興と高度経済成長を支えました。
双日歴史館では、1946年にGHQの食糧・綿花輸送代行業務を開始し、食糧庁の米穀取扱指定商社となって米穀輸入業界で一位になったことが紹介されています。1953年には、日綿實業が輸出入の5%を取り扱い、総合商社中第一位になりました。
1955年にはブラジル・リオドセの鉄鉱石輸入を開始し、1962年には15年間・5,000万トンの対日大量売買契約を締結しました。1956年にはボーイングの日本総代理権を獲得し、1961年には中国から総合商社初の友好商社に指定されています。
この時代の歴史を見ると、現在の双日の事業とのつながりが見えてきます。
航空機代理店やリース事業は、ボーイングやエアバスとの歴史に通じます。鉄鉱石や資源事業は、ブラジル鉄鉱石やLNGの歴史に通じます。中国やベトナムなどアジアとの関係は、友好商社指定や新興国開拓の歴史に通じます。アグリや食料事業は、綿花・米穀・肥料などの供給機能に通じます。
双日の現在の事業は、合併後に突然生まれたものではありません。源流企業が積み上げてきた商権や知見が、現在の事業領域に形を変えて残っています。
1968年|日商岩井の誕生
1968年、日商と岩井が合併し、日商岩井が誕生しました。双日歴史館でも、1968年に日商と岩井が合併して日商岩井が誕生したことが示されています。
この合併により、旧鈴木商店の流れをくむ日商と、岩井商店を源流とする岩井産業の系譜が一つになります。
日商岩井は、その後も航空、資源、機械、プラント、インフラ、化学品などで存在感を高めていきました。1973年にはインドネシアLNG長期輸入契約を締結し、エアバスの日本総代理権も獲得しています。
つまり、日商岩井は、現在の双日の航空・交通インフラ、エネルギー、資源、化学、アジア事業につながる重要な商権を育てた会社です。
一方で、ニチメンは日本綿花を源流とし、綿花、繊維、食料、化学品、生活関連事業などで独自の基盤を持っていました。
双日は、この日商岩井とニチメンが合併して誕生した会社です。
1980年代〜1990年代|ベトナム・食料・化学への広がり
1980年代から1990年代にかけて、双日の源流企業は、アジアや化学、食料関連の事業を広げていきました。
双日歴史館では、1986年に日本企業として初めてベトナム・ハノイに駐在員事務所を設立したことが紹介されています。さらに、1995年にはベトナムで日本企業初の植林事業を開始し、翌年には同国で化成肥料生産合弁会社を設立しました。
この歴史は、現在の双日のアジア事業やアグリビジネスを考えるうえで重要です。
双日は、ベトナムを単なる販売市場として見てきたわけではありません。戦後復興や経済発展の過程で、現地に入り、事務所を構え、植林、肥料、食品流通、リテールなどの事業を積み上げてきました。
現在の双日は、ベトナムでリテールバリューチェーンや食品関連事業を展開し、アグリや生活産業にも取り組んでいます。こうした事業は、1980年代から1990年代にかけて現地に入り込んだ歴史とつながっています。
2003年〜2004年|ニチメン・日商岩井から双日へ
2003年、ニチメン・日商岩井ホールディングスが設立されました。そして2004年、双日株式会社が設立されます。双日歴史館の年表でも、2003年にニチメン・日商岩井ホールディングスが設立され、2004年に双日株式会社が設立されたことが示されています。
この合併は、単なる規模拡大ではありませんでした。
日商岩井とニチメンは、それぞれ長い歴史と多様な事業基盤を持っていました。しかし、合併当時の双日は財務面で大きな課題を抱えており、旧会社の商権をどう整理し、どの事業を残し、どの事業を伸ばすかが重要な経営課題となりました。
The社史では補足的に、合併時点で連結有利子負債が1兆5,000億円超に達し、財務再建を最優先課題として出発したと整理されています。
つまり、双日は「歴史ある会社同士が合併した新会社」であると同時に、「再建を通じて自社の強みを作り直した会社」でもあります。
2004年以降|財務再建と事業ポートフォリオの選別
双日の合併後の歴史では、財務再建が非常に重要です。
The社史では、2004年7月に双日が総額2,500億円規模の損失処理と同規模の優先株発行による増資を柱とする新再建計画を発表したと整理されています。また、旧日商岩井の航空機ファイナンス事業への対応が大きな論点になったことも補足されています。
財務再建は、企業にとって厳しい過程です。
しかし、双日にとっては、この時期が現在の会社の土台を作ったともいえます。旧二社から引き継いだ多様な事業をすべて残すのではなく、強みを持つ領域、利益を生む領域、将来性のある領域へ絞り込む必要がありました。
The社史では、2012年以降の事業ポートフォリオ再編について、大手商社と競合する領域を選別して売却しながら、競合しない機能性事業を残す原則が固まったと整理されています。
この経験が、後の「双日らしさ」につながります。
双日は、財務再建を通じて、自分たちがどの領域で勝つのかを考えざるを得ませんでした。だからこそ、現在の双日は、巨大資源権益だけを追うのではなく、自動車ディストリビューター、航空、化学、レアアース、アグリ、ベトナム、リテールなど、自社が強みを発揮しやすい領域を重視しています。
2016年以降|双日らしさと非資源ポートフォリオ
2016年以降、双日は「双日らしさ」をより明確に打ち出していきます。
The社史では、2016年に代表取締役社長へ就任した藤本昌義氏が、大手5社との直接競合を避ける差別化路線を明確に打ち出したと整理されています。また、双日は人材制度や投資対象の両面で、従来の商社像とは異なる針路を選んだと説明されています。
この時期の双日は、非資源分野の積み上げを重視しました。
The社史では、藤本体制で積み上げた非資源投資の代表例として、ベトナムのミニストップ事業、省エネルギーサービス事業、水産バリューチェーンが挙げられています。いずれも単独案件の規模は大きくなくても、周辺事業とのシナジーを形成する「事業の塊」として構想された投資だと整理されています。
ここで重要なのは、双日が「小さい案件をバラバラに持つ会社」ではなく、それらを組み合わせて収益基盤を作ろうとしている点です。
双日は、単独で巨大な資源権益を持つよりも、強みのある地域・機能・事業領域をつなげ、収益の塊を作る方向を目指しています。この考え方は、双日の合併・再建の歴史から生まれた現実的な戦略といえます。
2020年代|機動力とカタマリ戦略で双日らしさを磨く
2020年代の双日は、財務再建の段階を越え、成長投資と事業創造の段階へ進んでいます。
ここで重要なのが、「カタマリ戦略」です。
The社史では、植村幸祐社長が掲げるカタマリ戦略について、点在する事業を線・面・塊へと連結し、バリューチェーン型の収益構造を築く方針だと整理しています。中期経営計画2026では、三カ年平均純利益1,200億円超、新規投資6,000億円、株主還元1,300億円を掲げたとされています。
この考え方は、双日の企業規模とも関係しています。
双日は、大手5社と同じ土俵で、巨大資源権益や超大型インフラ案件を次々に積み上げる会社ではありません。むしろ、大手商社が優先しにくい中規模案件、地域密着型の事業、専門商権、現地ネットワークを活かせる領域に入り込み、そこから周辺事業を広げていくことに強みがあります。
たとえば、自動車事業であれば、単に車を売るだけでなく、販売金融、部品、サービス、ディーラー運営まで含めて事業を広げる余地があります。アグリ事業であれば、肥料や飼料の販売だけでなく、農業生産、食品加工、物流、販売網へと広げることができます。レアアースや化学品であれば、単なるトレードにとどまらず、供給網の多角化や顧客産業との関係構築へ展開できます。
このように、双日は一つひとつの事業を巨大化させるというよりも、関連する機能を組み合わせて、収益のまとまりを作ろうとしています。
これは、合併・再建を経験した双日だからこその戦い方です。
双日の企業理念とは何か
双日の企業理念は、非常にシンプルです。
双日グループは、「誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します」と掲げています。また、グループスローガンは「New way, New value」です。
この理念は、双日の歴史とよく合っています。
日本綿花は、世界の綿花産地と日本の紡績業を結びました。岩井商店は、海外からの輸入品と国内製造業を結びました。鈴木商店は、商社と製造業を結び、多数の事業会社を生み出しました。日商岩井やニチメンは、航空、LNG、鉄鉱石、中国、アジア、ブランドビジネスなど、世界と日本を結びました。現在の双日は、事業の点をつなぎ、カタマリとして新たな価値を作ろうとしています。
つまり、双日の企業理念にある「世界を結び」「新たな価値を創造する」という言葉は、源流企業から続く商社機能そのものです。
行動指針と双日の社風
双日の行動指針には、同社らしさがかなり明確に出ています。
双日は、強い個を活かす組織力をもとに創造性を発揮し、すべてのステークホルダーに貢献するための行動指針として、確かな信頼を築くこと、将来を見据えて創意工夫すること、スピードを追求すること、リスクを見極めて挑戦すること、強固な意志でやり遂げることを掲げています。
この行動指針は、双日の歴史そのものと重なります。
鈴木商店のような挑戦の歴史がある一方で、破綻や合併後の財務再建も経験しています。だからこそ、双日は単に「挑戦しよう」とは言いません。「リスクを見極め、挑戦する」と表現しています。
また、合併会社として旧二社の歴史や文化を持つからこそ、「強い個を活かす組織力」も重要です。旧来の商社文化にとどまらず、個人の発想や創意工夫を活かしながら、組織として事業を作ることが求められます。
双日の社風を一言で言えば、再建を経て鍛えられた現実感と、新しい価値を作ろうとする挑戦心を併せ持つ会社です。
理念を象徴する事業・事例
双日の理念を理解するには、具体的な事業を見るのが分かりやすいです。
「誠実な心で世界を結び、新たな価値を創造する」という理念は、航空、自動車、レアアース、アグリ、エネルギー・インフラ、ベトナム事業などに表れています。
ただし、ここでも単に「この事業をやっている」と並べるだけでは、双日らしさは見えてきません。重要なのは、それぞれの事業が「大手商社が取り切れない領域に入り込み、専門性や機動力で収益機会を作る」という双日の戦い方とどう結びついているかです。
航空・交通インフラ|源流から続く専門商権
双日は、航空・交通インフラに特徴を持つ商社です。
現在の双日は、民間航空機・防衛関連の代理店、リース、ビジネスジェット、空港、工業団地、都市インフラ、鉄道、船舶関連事業などを手掛けています。
この航空事業は、歴史ともつながっています。
双日歴史館では、1956年にボーイングの日本総代理権を獲得し、1973年にはエアバスの日本総代理権を獲得したことが示されています。
航空機ビジネスは、単に商品を売るだけの事業ではありません。メーカー、航空会社、政府、金融、リース、整備、保険、規制対応など、多くの関係者をつなぐ必要があります。
この領域は、巨大な資源権益とは違う意味で、専門性と関係構築力が問われる事業です。双日が航空領域に強みを持つのは、源流企業の時代から積み上げてきた商権と専門性があるためです。
自動車|グローバル・ニッチトップを狙う事業
双日の自動車本部は、自動車の卸売事業と小売事業を成長市場・成熟市場で展開し、販売金融や自動車関連サービスにも取り組んでいます。
双日の自動車事業は、豊田通商のようにトヨタグループの商社として大規模に展開するモデルとは異なります。双日は、国や地域ごとの需要を見極め、ディストリビューター、ディーラー、販売金融、サービスを組み合わせる形で事業を作ります。
双日の公式プロジェクト紹介でも、中南米地域での自動車ディストリビューター事業を「グローバル・ニッチトップ」の戦略として紹介しています。
ここに、双日の機動力が表れています。
大手が大きな国・大きな商権に注力する中で、双日は地域やブランドを絞り、販売、金融、サービスを組み合わせて事業を深掘りする。これは、双日らしい戦い方です。
レアアース・重要鉱物|産業に必要な素材を支える事業
双日の化学本部では、メタノール、合成樹脂、工業塩、レアアース、鉱産物などを扱っています。環境ビジネスやライフサイエンス分野での事業開発にも取り組んでいます。
特にレアアースは、EV、モーター、風力発電、電子部品など、現代産業に欠かせない重要素材です。双日の公式プロジェクト紹介でも、レアアースを「産業のビタミン」と表現し、サプライチェーン多角化を推進して安定供給に貢献する取り組みが紹介されています。
この事業は、日本綿花の歴史とよく似ています。
日本綿花は、日本の紡績業に必要な綿花を世界から調達しました。現在の双日は、製造業や脱炭素社会に必要な重要鉱物やレアアースの供給網づくりに関わっています。
扱う商品は変わっても、「産業に必要なものを安定供給する」という商社機能は変わっていません。
アグリ・食料|生活産業を面で広げる領域
双日は、生活産業・アグリビジネス分野でも事業を展開しています。
同本部では、持続可能な消費と生産をテーマに、肥料、飼料・畜産、製粉・製菓、農林・地域開発、食品流通、建材、製紙などに取り組んでいます。
この領域も、双日の源流とつながります。
日本綿花は、綿花調達を通じて日本の紡績業を支えました。戦後には食糧・綿花輸送代行業務や米穀輸入にも関わっています。
また、双日の公式プロジェクト紹介では、東南アジアで高度化成肥料の製造・販売を半世紀にわたり展開し、農家やディーラーの信頼を獲得して農業の発展に寄与している事例も紹介されています。
アグリや食料は、派手な事業ではありません。しかし、人々の生活と産業の基盤を支える重要な領域です。
双日にとって重要なのは、単に肥料や食品を売ることではありません。農業生産、食品加工、流通、リテール、地域開発といった周辺機能を組み合わせることで、地域ごとの収益基盤を作ることです。
これは、カタマリ戦略と相性の良い事業領域です。
エネルギー・総合インフラ|社会課題を事業にする領域
双日のエネルギー・総合インフラ本部は、再生可能エネルギー、省エネ、エネルギートランジション、大型インフラPPP、電力IPPなどに取り組んでいます。同社は、世界の脱炭素化や人口増加といった社会課題解決に取り組むと説明しています。
この領域では、台湾の大規模洋上風力発電や、米国・豪州でのエネルギーソリューション事業なども紹介されています。
ただし、インフラや再エネは簡単な事業ではありません。
大型案件は、建設、資金調達、運営、規制、地域社会との関係など、多くのリスクを伴います。だからこそ、双日は単独案件の規模だけで勝負するのではなく、複数の事業をつなぎ、地域や機能ごとに収益のまとまりを作ろうとしています。
この点に、双日の特徴があります。
双日の社風・人材像へのつながり
双日の歴史と企業理念から見える社風は、いくつかの言葉で整理できます。
まず、挑戦する姿勢です。
鈴木商店は、日本一の総合商社へ成長し、多数の事業会社を生み出しました。日本綿花は、海外綿花調達に挑み、岩井商店は輸入の国産化を進めました。双日の源流には、いずれも新しい道を切り開く商社の姿があります。
次に、再建を通じて培われた現実感です。
双日は、合併後に財務再建を経験しました。事業の選別、低採算資産の整理、有利子負債の圧縮を経て、現在の成長投資に進んでいます。The社史では、発足当初の双日が財務再建を最優先課題に据えざるを得ない状況から出発したことが補足されています。
さらに、スピードと創意工夫です。
双日の行動指針には、将来を見据えて創意工夫すること、スピードを追求すること、リスクを見極めて挑戦することが示されています。
双日に向いている人材像としては、以下のようなタイプが考えられます。
- 大企業の中でも、自分で事業を作る感覚を持ちたい人
- 既存の商社モデルにとらわれず、独自の領域で勝ち筋を見つけたい人
- 航空、自動車、化学、レアアース、アグリ、リテールなどの具体的な事業に関心がある人
- リスクを理解したうえで、挑戦する姿勢を持てる人
- スピード感を持って動き、周囲を巻き込みながら事業を進めたい人
- 再建や変革の歴史を、前向きな企業文化として捉えられる人
双日の社風を一言で表すなら、挑戦と再建の歴史を背景に、独自の事業領域で新しい価値を作る会社です。
まとめ:双日は「合併・再建・機動力」から独自の事業を作る商社
双日は、日商岩井とニチメンの合併によって2004年に誕生した総合商社です。
ただし、その歴史は2004年から始まったわけではありません。双日の源流には、日本綿花、岩井商店、鈴木商店があります。日本綿花は日本の紡績業に必要な綿花を世界から調達し、岩井商店は輸入品の国産化を進め、鈴木商店は一時、日本一の総合商社へ成長しました。
この源流を見ると、双日にはもともと、世界と日本を結び、産業に必要なものを供給し、新しい事業を生み出してきた歴史があります。
一方で、現在の双日を理解するうえでは、合併後の財務再建も欠かせません。
双日は、日商岩井とニチメンの合併によって多様な事業基盤を引き継ぎました。しかし、合併直後は財務面の課題も大きく、低採算資産の整理や事業ポートフォリオの見直しを進める必要がありました。
この再建の経験が、現在の双日の経営に大きな影響を与えています。
双日は、七大総合商社の中では企業規模が比較的小さい会社です。しかし、その規模感は弱みであると同時に、機動力にもなります。大手5社が優先しにくい領域、個別性の高い地域、専門商権、成長途中の市場に入り込み、そこから事業を育てる余地があるからです。
双日は、巨大資源権益だけで勝負する会社ではありません。航空、自動車、化学、レアアース、アグリ、リテール、エネルギー・インフラなど、自社が強みを発揮できる領域を選び、そこに販売、金融、物流、事業運営、現地ネットワークを組み合わせて価値を作る会社です。
その意味で、双日を理解するキーワードは「合併・再建・機動力」です。
合併によって、多様な商権と歴史を受け継いだ会社。
再建によって、事業を選び抜く感覚を磨いた会社。
機動力によって、大手が取り切れない領域へ挑戦している会社。
双日の企業理念は、「誠実な心で世界を結び、新たな価値と豊かな未来を創造します」です。
この理念は、単に世界中で事業を行うという意味ではありません。双日にとっての「世界を結ぶ」とは、規模の大きさだけでなく、他社が見落としがちな地域、商権、産業、パートナーをつなぎ、新しい事業価値を作ることでもあります。
双日は、財閥系商社でも、近江商人系商社でも、メーカー系商社でもありません。
複数の源流を持ち、合併と再建を経て、自社らしい勝ち筋を探し続けてきた総合商社です。大手総合商社と同じ土俵で規模を競うのではなく、双日だからこそ入れる領域で、機動力を活かして事業を作る。
そこに、双日という会社の面白さがあります。